熟練技術者の高齢化【技術士キーワード学習】
熟練技術者の高齢化について
我が国のものづくり産業では、若年入職者の減少による技術者の平均年齢の上昇や、団塊世代の熟練技術者が引退を迎えることにより、技術の維持・継承の問題が顕在化している。このことにより、我が国競争力の源泉である優れた技術が喪失の危機にあり、我が国の物づくりの衰退を招く可能性がある。
参考:厚生労働省:熟練技能の継承・発展のための支援策 (mhlw.go.jp)
熟練技術者の高齢化についての問題点と課題
多面的な観点から、の問題点3つ
人に頼った品質確保の仕組みの機能の改善
品質の観点から、熟練技術者の減少および後継者不足に伴い、品質確保の仕組みを人の能力に頼った方法から転換し、省人化・効率化と品質確保を両立する必要がある。
技術者の多能化
人材の観点から、技術伝承をする際に、複数の技術者からひとりの技術者へ多くの技術を伝承し、ひとりの技術者が担える技術の範囲を拡大する必要がある。
技術的な知識と経験の保存
情報の観点から、熟練技術者のカンコツ経験をデータ化し、人から人への伝承する方法から転換し、会社全体で共有する、ナレッジマネジメントを行う必要がある。
最重要課題
労働力減少の対策として、一般的にロボットなどを使った自動化を取り入れることが多いが、中小町工場の立場からは投資の額が大きく導入が難しい場合があることから、人の輪を活かした改善が必要だと判断し、「技術的な知識と経験の保存」を最重要課題と考える。
最重要課題の解決方法
ナレッジ共有ツールの活用
ナレッジ共有ツールを活用し、熟練者から若手へ指導した内容を文書や動画などのデジタルデータとして保存し、社内全体で共有できる形式知とする。
モーションキャプチャ・AR技術の活用
参考:Microsoft PowerPoint – 舞踊の伝承(SCOPE2011成果発表会Final).pptx (soumu.go.jp)
モーションキャプチャを活用して熟練者の動作を数値データ化し、若手の動作との違いを可視化する事で、カンコツに関する情報を分析できるようにする。
VRゴーグルの利用を前提とした動画を撮影し、熟練者に直接技術指導を受ける状況を再現する事で、現場現物に近い技術伝承を行う。
JR東日本では、線路の制御装置の操作トレーニングにARを導入し、実寸大の装置と線路を表示させ、実際に体を動かしながら操作訓練できる教材を開発している。
IoTを使った不具合箇所の特定と処置マニュアルの表示
現場にて問題が起こった際に、IoTを使用して不具合箇所を特定する。パソコン等のICT機器を使用して不具合箇所の復旧方法に関するマニュアルを表示する事で、熟練者がいない環境でも処置方法がわかるようにする。
解決策による波及効果と懸念事項
解決策による波及効果
熟練者のもつ技術や知識を社内全体で共有する事により、担い手の技術伝承に関する負担を減らすことができる。また、IoTを使った遠隔での情報収集や、VR技術により現場環境を再現する事で、離れた場所からの技術サポートを行うことができる。
解決策を実行しても存在するリスク
技術を形式知に転換するにあたり、熟練者が実務と並行して準備を行う場合は、時間が足りず定年を迎えてしまい、伝承できる内容が不十分となる可能性がある。
懸念事項の対策
残したい技術の熟練者の雇用体系を変更して対応する。
定年年齢の延長
現在は、60歳の定年を迎えた後は要望があれば65歳まで再雇用を行うことができるようになっているが、同時に定年を70歳にする努力目標も存在しており、段階的に定年制度を遅らせる事で技術伝承の時間を確保する。
パートタイムとして技術指導を行う
フルタイムで働くのが体力的に困難な場合は、パートタイムとして技術指導に従事して、専任で技術伝承を行う。
個人事業主として請負業務を行う
技術指導専任の個人事業主として請負契約を結び、定年後も技術指導を行う機会を確保する。