熱間鍛造とは?金属を加熱してから叩いて鍛える、鍛造の代表的な手法
こんにちは、ものづくり王国にっぽんの管理人をしています、とも(@Japan_MFG_Tomo)です。
「日本のものづくりを盛り上げたい」という気持ちから、今までの専門であった切削加工から分野を変えて、鍛造加工についての勉強をし始めました。
▼先日したツイートでは、たくさんの応援いいねをありがとうございました。
鍛造について、来週から会社に入れてもらって勉強をする予定なので、まずは基礎知識のインプットから。
とりあえず鍛造の本4冊プラス、名前が似てる「鋳造」の本をスラーっと読んで、大事そうな所を探します。 pic.twitter.com/7U8eWFXCMJ
— とも@鍛造を勉強中 (@Japan_MFG_Tomo) August 16, 2022
鍛造の本を読んで勉強した部分。
どこが必要な箇所なのか分からないので、よく出てくる名前かつアカデミック過ぎない部分を先に勉強しました。
おかげで工場見学した時の内容を凄くスムーズに理解出来たので、とても良かったです。 pic.twitter.com/NKl8G48f2t
— とも@鍛造を勉強中 (@Japan_MFG_Tomo) August 23, 2022
切削加工の基礎知識があるため鍛造の取り掛かりは苦労が少ないですが、
それでも結局は現場に出たもん勝ちなので、今は現場にてたくさんの工程を観察させてもらっています。
今回は「熱間鍛造とは」というテーマを取り扱っていきます。
細かい情報は参考の本を紹介したり、動画を貼り付けたりして紹介しています。
困った時にサラッと読めるようにブックマーク推奨です。
特に海外に行くとkindleでは鍛造の本は種類が少ないので、ブログ記事が便利ですよ。
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熱間鍛造の用途
熱間鍛造は、英語ではHot forgingと言います。ちなみに中国語では热锻(熱鍛)と言ったりします。
熱間鍛造の主な用途は、「複雑な形状」と「大型部品」の製造です。
鍛造の特性には加工後の強度が高いことがあり、自動車や航空機などの重要保安部品に採用される事が多い加工方法です。
切削、鋳造、冷間鍛造などと比較しながら最終的にはコストと品質のバランスから加工方法を決定しますが、こんな時に熱間鍛造を選ばれることが多いとされています。
- 鍛造によって大きな変形を加えたい
- 材料が室温では硬くて脆い性質を示す
- 形状が複雑
- サイズが大きい
- 鋳造では強度不足
熱間鍛造では鋳造で発生する気泡(巣)による強度低下が発生しないのが利点。
鋳造では強度に心配がある部品では、熱間鍛造を採用します。
(叩いて気泡になる部分を潰すイメージをすれば強度が高いのが想像しやすいかもしれません。)
また、高温で加工をすると金属は柔らかくなるので、加工負荷が小さくなります。
再結晶温度よりも高い温度で加工をすると、変形したその瞬間から金属組織が綺麗に整列するため残留応力が発生せず、割れにくい利点があります。
逆にこんな時は冷間鍛造を選びます。
- 製品サイズが小さく、力を集中しやすい部品形状
- 良好な寸法精度を求められる
- 良好な表面性状を求められる
- 高い生産性が必要
コストが大きな武器になる鍛造工程の場合は冷間鍛造の見せ場。
金属を加熱せず常温で鍛造加工をするため、職場環境も良く、環境負荷(エネルギー)も少なく、生産がしやすいのが冷間鍛造の特徴です。
しかし、冷間鍛造では低い温度の金属に対して力を加えて無理やり形状を変えているため、内部応力による寸法変化、割れのリスクがあります。
また、加工硬化するので複雑な形状を作るのは得意ではありません。
イメージとしては身体のストレッチでしょうか。
お風呂上りにストレッチすると身体が伸びやすいですが、冬の寒いときにストレッチしても痛いだけですよね。
鍛造も同じように、温度が低いとあんまり気持ちよく伸びないので、形状変化がうまくいきません。
熱間鍛造のメリットとデメリット
熱間鍛造のメリットにはこんなものがあります。
- 金型価格を抑えられるためイニシャルコストを下げられる
- 金型の耐久性が高いためランニングコストを下げられる
- 鋳造ほどではないが、冷間鍛造より成型の自由度がある
熱間鍛造では、「加熱して金属を柔らかくしてから加工する」という特性のため加工負荷が小さく、金型への負担が冷間鍛造に比べて小さいです。
したがって金型に使う材料のコストを抑えられるので、金型の導入コストを抑える事ができます。
また同じようにして、熱間鍛造では加工負荷が小さいためランニングコストを抑える事が出来るといわれています。
※あくまで一般論、実際の状況と100%一致はしません。熱により金型がダメージを受けるので、熱間鍛造の金型寿命が短くなるも事あります。
逆に、熱間鍛造によるデメリットは
- 熱膨張するため、寸法精度が悪くなる
- 表面の仕上がりが綺麗ではない
- 冷間鍛造程量産性が良くない
- 表面に酸化被膜ができる
加熱すると金属は大きくなり、冷却されると縮むため、この間の寸法変化により加工後の寸法精度が悪くなります。
また、表面に酸化被膜が付くのでショットブラストなどで表面を削ります。
したがって製品表面には小さな凸凹ができ、触り心地はざらざらしています。
熱間鍛造後の表面
ショットブラスト後
熱間鍛造で加工される製品の例
熱間鍛造で加工される製品には、以下のようなものがあります。
- 船舶部品
- 自動車部品
- 航空機部品
- 農機部品
熱間鍛造では組織が均一化し靭性が向上するため、動力機械の部品のうち特に負荷の大きい場所に使われる事が多いです。
代表的な鍛造製品はクランクシャフトです。
動力を伝える為に大きな負荷に耐え、壊れない部品であることが重要です。
自動車のエンジンや足回り部品には鍛造部品がたくさん使われています。
熱間鍛造に適した材料
熱間鍛造に使われる材料は、以下の5種類がメイン
- 炭素鋼
- 合金鋼
- ステンレス鋼
- アルミニウム
- 銅
この中で、特によく見る炭素鋼と合金鋼について、少し解説します。
炭素鋼
S○○CというJISの呼び方で有名な炭素鋼。
炭素の量によって焼き入れ性能(焼き入れをした時の硬くなりやすさ)が変わります。
炭素鋼を熱してオーステナイトという状態から急冷すると、硬くて脆いマルテンサイトという組織を得る事ができます。これを焼き入れと呼びます。
しかし焼き入れしたままの組織だと脆すぎて割れやすいので、粘り強さ(靭性:割れにくさ)を付加するために焼き戻しを行います。
▼熱処理についての参考記事
熱処理とは【熱を加えて鋼材の性質を変える処理。まずは全体像を紹介】
合金鋼
高い応力が作用する歯車やフランジなどの部品には、高強度の材料が必要です。
強くて折れづらくするためには、硬さと粘り強さを同時に持っていたいのが希望。表面を硬く、内部を柔らかくするために、炭素含有量の少ない鋼材を使って鍛造し、その後浸炭焼入れをする事で実現します。
炭素鋼S20C~S40Cを基準にして、クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素を添加して目的の性能を得ます。
一般的にクロムは耐摩耗性を増して焼き入れを容易にする、モリブデンは焼き入れの効果を高める、ニッケルは鉄の耐衝撃性を高める効果が期待でき、添加した後の材料にはSCMやSCrなどと、添加した元素にちなんだ名前を付けています。
また、金型には熱間鍛造の場合はSKD61材を使う事が一般的で、冷間鍛造の場合はSKD11を使う事が多いと言われています。
熱間鍛造に使うプレス機の種類
熱間鍛造に使うプレス機の種類はいくつかありますが、よく使われるのが以下の4種類。
- ハンマー
- クランクプレス
- スクリュープレス
- リンクプレス
プレス機とは、上下に取り付けた金型の間に被加工材を挟んで、強く圧力をかけて金型と同じ形状に塑性変形させる機械の事を言います。
重そうなブロックが上から降りてきて、何かを挟んでいる様子があればそれはきっとプレスです。
日常会話でも「プレス」って単語使いますよね、たまに。あれです。
ハンマープレスの動画
クランクプレスの動画
リンクプレスの動画
スクリュープレスの動画
鍛造について簡単に勉強するなら
鍛造については出ている情報がすくないので、
- 本を読む
- インターネットで調べる
- 動画を見る
など知識ののインプットだけでは絶対に足りません。
しかし現場に出ればそこには無限の情報があります。
したがって、本サイトでもある程度基礎の基礎に当たる部分は記事に残しますが、その後には必ず現場に行って見学してきてほしいと思います。
それでは、これからも一緒に勉強を頑張りましょう。
以下、私も参考にした書籍を4冊、紹介します。
少し学術的な内容が入ってくるので、最初の一冊には少し難しいかもしれません。
しかし、説明の内容は非常にわかりやすく、この本が無ければ理解できない内容もありました。
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大学で使う教科書的な本で一見とっつきにくいですが、基礎に対する理解が増えていけば分かる内容が増えてきます。
最終的に手元に残す本として一冊持っておくのがいいかもしれません。
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