鍛造の種類をざっくり解説。ハンマーとプレスの違いにフォーカスして
鍛造の分類について、ざっくりと解説します。
鍛造は、色んな切り口から分類が可能です。
- 設備からの切り口(ハンマー、プレス)
- 温度からの切り口(熱間、冷間、温間)
- 金型の有無からの切り口(型、自由)
- 材料からの切り口(アルミ、ステンレス、チタン等)
どの切り口からも、「これはこう」と綺麗に分類ができないので、今回はそのうちの、設備からの切り口で解説します。
鍛造の種類について、ざっくり解説【ハンマーとプレスの違いに注目】
一般的に、「鍛造の種類を2つに分けて」と言われると、型鍛造と自由鍛造で分類するようです。しかし、型鍛造と自由鍛造で分類すると、使う領域があまり被らないので、そこで分けても実務的にご利益がある人は少ないです。なので、よく質問に挙がる、ハンマー鍛造とプレス鍛造の違いに注目して紹介します。
まず、鍛造とは、「ハンマー」や「鍛造プレス」と呼ばれる設備を利用して、加熱した金属材料を打撃し、成型する塑性加工の一種です。材料内部の空隙を潰し、組織が整うことから強度が高くなること、「鍛流線(メタルフロー)」が形成され、反復曲げ応力に強い事から、故障すると人の安全に関わる「重要保安部品」に多く用いられます。
ハンマー鍛造とは
ハンマーと呼ばれる設備を使用して行う鍛造方法です。上から重たいハンマーを落として、熱した材料をドンドンと音を鳴らしながら打撃する、昔ながらの鍛冶屋のイメージのスケールを大きくしたバージョンだと思うと分かりやすいかと。
▼ハンマー設備の写真
▼ハンマー鍛造の動画
メリットとして、金型の使用の有無から「型鍛造」と「自由鍛造」に分けられます。型鍛造の場合、一つの金型で複数工程に対応できることから、金型のコストを低く抑えられ、段取替えも早いので、小ロット生産に対応しやすいことが挙げられます。また、曲がった形状等、複雑な形状にも対応しやすい特徴があります。
デメリットとしては、人が作業を行うため、職人の育成が必要であることが挙げられます。また、自動化が難しい事も、現代ではデメリットの一つになるかもしれません。環境的には、騒音があるので、住宅地では公害問題となる可能性がある事もデメリットになります。したがって、近年ではハンマー鍛造メーカが減ってきています。
プレス鍛造とは
プレス機を用いて材料に圧力を加え、成型する鍛造方法です。プレス機でガッチャンコと押さえつけることで、材料がウニュっと変形します。
設備の構造自体は、一般のプレス加工するプレス機と同じような感じだと思います。ただし、大きい金属を思いっきり変形させるので、力があります。
メリットとして、加圧力が一定であることから、ハンマー鍛造のようにリズムや力の入れ方などの「THE マニュアル操作」を必要としないため、人材育成が行いやすい事、CNC制御のプレス機を用いることで自動化が可能になる事が挙げられます。自動化工程を組むことができれば、夜間の生産も可能となるので、大量生産が可能になります。したがって、プレス鍛造メーカがたくさんあります。
デメリットとして、1工程に1つの金型が必要なため、イニシャルコストが大きい、という事が挙げられます。とにかく大量に作って一つあたりのコストを下げる必要があるので、大量生産が前提とも言えます。
ハンマー鍛造とプレス鍛造の違い
端的に言えば、使用する機械が違います。それ以外にも、以下の違いがあります。
ハンマー鍛造 | プレス鍛造 | |
設備 | ハンマー | プレス機 |
金型 | 複数工程を1つの金型で加工できる | 複数工程の場合は複数の金型が必要 |
形状 | 曲がった形状や段付きの形状が作れる。抜け勾配が必要 | 主にまっすぐした形状が得意。抜け勾配が小さくできる |
ロットサイズ | 小ロットも対応ができる | 設備や金型費用が高いので、大ロットが嬉しい |
自動化 | 基本的には人が操作する | 自動化しやすい |
ハンマー鍛造では複雑な形状を担当することが多く、離型が課題になりやすいです。一般的には5°~7°の抜け勾配を付けて、離型しやすくします。したがって側面は丸みがかった形状になります。
プレス鍛造では、離型が悪い製品でも、ノックアウトピン(イジェクタピン)を使用する事で強制的に離型させることができるので、抜け勾配を1°~3°程度など、ハンマー鍛造よりも小さくすることが可能です。ハンマー鍛造でこれをやろうとするとアンビル(土台)が割れやすくなってしまうので、中々実用的ではありません…。
鍛造の種類の使い分け:ハンマー鍛造とプレス鍛造を、どうやって使い分けるか
加工メーカの方が鍛造素形材を使った設計をすると、「鍛造!」とは決めるものの、ハンマー鍛造とプレス鍛造のどっちにしたらいいか、結構迷います。そんな場合の参考として、以下の3点を考えるといいと思います。
- 形状の要求
- 数量の要求
- 需要の変動
プレス鍛造メーカの方が多いので、最初はプレスに適した形状で考える事が多いと思います。その後に、価格や対応の柔軟さから、ハンマーに変更していくイメージなのかな、と予想しています。詳しく解説します。
形状の要求からハンマー鍛造とプレス鍛造を分ける
抜け勾配と、製品自体の複雑さからハンマー鍛造とプレス鍛造を使い分けます。
抜け勾配が小さい方が嬉しい場合:プレス鍛造を選定します。外周形状の要求が厳しい製品では、後加工で削らなくていい、ギリギリのラインで設計したくなると思います。その際に、抜け勾配が小さいほうが嬉しいので、プレス鍛造が選ばれます。つまり、加工コストとのバランスですね。
曲がったり、捻ったりした形状の場合:ハンマー鍛造を選定します。プレス機は上下方向に圧力をかけるので、一般的に曲がった形状が苦手です。
フォーク等、熱変形が懸念される場合:プレス鍛造が優勢です。とはいえ、熱処理で曲がる事もあるので、ハンマー鍛造で形を作り、熱処理後に冷間コイニングで矯正する事もできます。
数量の要求からハンマー鍛造とプレス鍛造を分ける
ロットが大きく、金型費用の負担感が小さい場合:プレス鍛造が優勢です。プレス鍛造が使える鍛造形状であれば、プレス鍛造が好まれる印象です。
ロットが小さく、金型費用が大きな負担となる場合:ハンマー鍛造が優勢です。一つの金型で複数工程に対応できるハンマー鍛造は、小量~中量生産でプレス鍛造よりも強みがあります。
需要の変動からハンマー鍛造とプレス鍛造を分ける
素形材は、前工程である材料の最小買取量が決まっている関係で、一個流し生産が基本「不可能」です。したがって、需要の変動が大きい場合、鍛造メーカに在庫を大量に保管させることになります。
したがって、需要の変動が激しい場合は、ロットを小さくしやすいハンマー鍛造の方が有利です。または、量産時はプレス鍛造で大量生産し、補給品扱いになったタイミングでハンマー鍛造に切り替えるのも、一つの方法です。
一部主観的な意見が混じっていますので、「こういう考え方だよ」とか「間違ってるよ」とか、「弊社はこんな考えを持っているのでそれをアピールしたい」とかの気持ちがあれば、遠慮せずにコメントを残していただけると嬉しいです。
みんなで一緒にものづくりの知識ベースを作っていきましょう!