研削加工とは【硬いものでも品質よく削る、仕上げ加工のエース】
研削加工とは
研削加工を簡単に説明すると、研削加工とは、旋盤やフライス加工、熱処理をした後の最後の仕上げ工程として、回転する砥石で行う除去加工のことです。
研削加工では砥石の粒ひとつ一つが「刃」としての役割を持っていて(「砥粒:とりゅう」と言います)、切削加工や熱処理の後の仕上げ加工として微量の寸法を削ったり、表面の面粗度を良くしたりできます。
研削加工では、「円筒度」や「平面度」を0.1μm(0.0001mm)の精度で仕上げられます。
砥粒の材料にはダイヤモンドや炭化ケイ素など使われていて、これらをボンドで固めて作られています。
研削加工は最終仕上げで行う物なので、回転のスムーズさ、平面のまっすぐさなどの最後の砦になります。
したがって研削加工の精度は機械部品の寿命や品質に影響する、最も重要な加工技術の一つと言われています。
研削加工の目的と特徴
研削加工の目的は、厳しい精度(高精度)の加工をする事です。
小さい寸法公差や、滑らかな表面粗さを研削加工で達成します。
研削加工では砥石を使って加工するのが特徴で、砥石の種類を変えたり加工条件を加工したりしながら「切削加工ではできない」加工を実現します。
ダイヤモンドで加工することもできるので、切削加工では削れない硬い材料も削ることができます。
研削加工は「平面度」や「真円度」で0.1μm単位の精度を求められる製品の仕上げ加工として選ばれます。
年々機械部品の要求精度が高くなっているので、寸法や表面粗さ、幾何公差について厳しい制度を求められることが増えてきました。
したがって従来は切削加工だけで完了していた部品にも研削加工を求められるようになっています。
研削加工をした身近な製品
研削加工で作られる身近な製品は、ベアリングなどの滑らかに動くものです。
自動車のクランクシャフトやカムシャフトも、最終工程に研削をしています。
- パイプ
- リング
- ワッシャー
- カラー
- ベアリング
- シャフト
- ギヤ
など
- ブッシュ
- カラー
- プレート
- ワッシャー
- シャフト
- 歯車
など
表面がツルツル、ピカピカした製品に研削加工が適用されています。
研削加工と切削加工の違い
研削加工と切削加工の一番大きな違いをいくつか挙げてみました。
▼研削加工と切削加工の違い
研削加工の方が、切削加工よりも加工精度が高い
研削加工では、切削加工では難しい硬いワークを削れる
工具が違う(刃物と砥石)
すくい角が違う(切削は正、研削は負)
精度が違う(研削加工の方が寸法の精度が細かい)
研削加工と切削加工の一番大きな違いは「工具」です。
切削加工では切削工具(バイトやカッターなど)、まさに「刃」というもので、ワークの不要な部分をごっそり削り取って加工しますが、研削加工では砥石を使い、表面を「研ぐ」ような形でワークを加工します。
研削加工は加工によって削り取る量が小さいので、「表面粗さの要求が厳しい」とか「寸法公差が狭い」時に使用します。
切削と比べて加工精度は高いですが切れ味が悪いので、切削で荒加工、研削で仕上げ加工とするのが基本です。
もう一つの違いは「硬いワークを加工できる」ことです。
切削では基本的に金属で金属を削りますが、研削はイメージとしては「石で金属を削る」感じです。
なので焼入れしてあっても気にせず加工できるし、研削砥石には硬さ最強の「ダイヤモンド」も使えるので、切削ではお手上げの硬さのワークを加工することができます。
研削加工と研磨加工の違い
研削加工と研磨加工は、会話の中ではほぼ混同されます。
が、一応定義としては、こうなってます。
- 砥石を使って削る:研削
- 砥粒を使って磨く:研摩
砥石を使うのか、粉または液体で磨くのかの違いで、どちらもピカピカを目指すものなので大体の定義は同じです。
研磨加工で一番わかりやすい例は、自動車のコンパウンドです。
石じゃなくて、スポンジに研磨剤を付けて磨きますよね。
英語だとGrindingとPolishingくらい違いますが、製造の現場では「研磨」と言っても研削ばっかり示すので、どっちを言っても通じます。
研削加工は中国語では磨加工と言いますが、これもややこしいですよね。ちなみに研磨は中国語で抛光と言います。
研削加工の種類と特徴
研削加工の種類は、大きく分けると6種類あります。
細かく分けると自動車のカムクランクの複雑な形状を加工する機会もあってそれは「円筒」じゃないですが、イメージは円筒研削と同じなので仲間に入れます。
よく使われる研削加工、「平面研削」「円筒研削」「内面研削」「センターレス研削」について、少し細かく解説します。
平面研削
平面研削加工は、ワークの平面をまっすぐ滑らかにする加工です。
テーブルにワークを固定し砥石を高速回転、テーブルをXY平面に動かして平面を仕上げます。(Z方向は切り込み)
この加工では「平面度」を整える事ができます。
加工の原理自体は横型フライス盤の平面削りに似ていますが、加工精度と回転数と切り込みが違います。
円筒研削
円筒研削では、円筒やテーパ形状の外周面を仕上げます。
旋盤に似た動きなので、軸物のワークの仕上げに使います。
真円度や円筒度を仕上げるときに使います。
内面研削
内面研削は、名前の通りワークの内面を研削する加工です。
内径の小さいワークでは外形研削のように砥石の回転速度をとれない(砥石径が小さいため回転数が余分に必要)ので、ワークと砥石を逆方向に回転させて速度を得ます。
センターレス研削
センターレス研削は円筒研削に似ていますが、ワークを保持する「センタ」がない研削方式です。「芯なし」とか「心なし」ともいわれます。
二つの回転する砥石とワーク受けの3点でワークを支えて中心を出します。
ワークを固定する必要が無いので量産工場でよく使用されています。
研削加工のメリットとデメリット
研削加工にはメリットとデメリットがあります。
物凄く雑に表現すると、「めちゃくちゃ丁寧に加工できるけど時間がかかる」などです。
固いワークにも適用できる加工なので、基本は仕上げの時に研削加工をします。
▼研削加工のメリット
- 寸法精度が高い
- 表面が切削に比べて滑らか
- 焼入れ後や、超合金などの硬いワークも削れる
一番のメリットは寸法精度です。
研削では加工に砥石を使いますが、切れ刃の役割をする砥粒は非常に細かいものです。つまり大量の細かい刃で同時に加工している状態になります。
小さい切れ刃で少しずつ、しかも大量の刃で一気に加工するので、精度が非常に高くなります。
▼研削加工のデメリット
- 加工に時間がかかる事
- 砥石が破損すると人命にかかわることがある
- 研削ポイントが高温になる(やけ、割れの可能性)
研削加工の一番の弱点は加工時間です。
切削のように一度に大量に削れないため、取り代が多くなると加工に時間がかかります。
このデメリットの解決のために、粗加工は切削で、仕上げ加工のみを研削加工で行います。
もう一つ大切なこと、研削加工では砥石は切削加工の10倍のスピードを持っています。
銃と同じくらいのスピードだともいわれています。
砥石が欠けて飛んでくると、それは銃弾のようなものなので、機械の薄いカバーを貫通する恐れがあります。
したがって砥石の取り扱いは非常に難しいので、取り扱いの資格制度があります。
研削加工で発生する問題と対処法
研削加工ではよく見られる問題として4つの大きな問題があります。
- 目こぼれ
- 目つぶれ
- 目詰まり
- 研削焼け
これらの原因と一般的な解決方法を紹介します。
目こぼれ
目こぼれとは、砥石の砥粒がボロボロっと取れてしまう現象のことです。
砥石は砥粒という小さな砂粒みたいなものをボンドでくっつけていますが、研削の最中にボンドが剥がれてしまう事があります。
研削の前は砥石を成型してきれいにしていますが、研削の最中に目こぼれが起きると復活の方法がありません。
直接的な影響は、ワークの表面の仕上がりが悪くなる事です。
▼目こぼれの原因は以下のようなものがあります。
- 切り込み量が大きすぎる
- ボンドが柔らかい
- クーラントが濃すぎる
▼目こぼれの解決方法は以下のようなものがあります。
- 切り込みを減らす
- ボンドを硬くする
- クーラントを薄くする
- 送り速度を落とす
- 砥石の回転数を上げる
ボンドもクーラントも化学的なものなので、濃すぎると悪い影響を及ぼします。
目つぶれ
目つぶれは研削砥石の目が平面になり、これ以上研削できなくなる現象です。
砥粒自身のギザギザが削れてなくなった状態ですね。
▼目つぶれの原因は以下のようなものがあります。
- 切り込み量が小さい
- ボンドが硬すぎる
- クーラントの濃度が薄い
▼目つぶれの解決方法には以下のようなものがあります。
- 切り込み量を上げる
- ボンドを軟らかくする
- クーラントの濃度を上げる
- 送り速度を上げる
- 砥石の回転数を下げる
研削加工では砥石の砥粒が自然に脱落することで常に切れ味の良い状態を作りますが(自生発刃)、ボンドの接着が強すぎると砥粒が脱落できず、切れ味のない砥石で擦るような加工になります。(これを目つぶれと言います)
したがって徐々に加工負荷が大きくなっていきます。
目詰まり
目詰まりは砥石の中の機構の部分に切りくずが詰まって、切れ味が悪くなる現象です。
アルミニウムや同、ステンレスなどの軟らかい金属で起きやすいとされています。
紙やすりで気を削ると徐々に削れなくなっていくのと同じような現象です。
▼目詰まり原因は以下のようなものがあります。
- クーラントが研削点にかかっていない
- クーラントが汚れている
- チップポケット(砥石表面のへこみ)が小さい
▼目詰まりの解決方法には以下のようなものがあります。
- クーラント圧を上げる
- クーラントを交換する
- 砥石にスリットを入れるなど、形状を変更する
- 砥石の粒度を下げる
目詰まりは研削切粉(スラッジ)を除去することが大切なので、綺麗なクーラントを加工ポイントに当てるようにします。
砥石のチップポケットとは、一時的に切りくずをため込む場所です。
小さすぎると切粉が砥石に詰まりやすくなります。
研削焼け
研削焼けとは、研削時に発生する熱によってワーク表面の色が変わる現象です。
研削焼けの原因をいくつか紹介します。
- クーラント量が足りない
- クーラントの種類が合わない
- 砥石に目詰まりや目つぶれが頻繁に起きる
- 砥石のボンドが硬すぎて新しい刃が出てこない
- 回転数が高すぎる
▼研削焼けの抑制方法は難しいですが、一般的にこういう対策が言われています。
- 切れ味の良い砥石を使う
- 粒度の粗い砥石を使う
- 切り込み量を減らす
- 切れ味がよくなるようにドレッシング条件を検討する
- クーラントを多くかける
砥石とワークの摩擦熱で温度が上がり、表面の色が変わります(酸化反応)
変色だけではなく、耐摩耗性が下がったり、残留応力が発生したりします。
研削加工の理論
最後に、研削加工でよく話題に上がる理論的な事についての情報を追記しました。
「よく聞く単語だけど実際の意味はあいまいだな」と思う部分があれば、参考にしてください。
ツルーイング、ドレッシングとは?
ツルーイング、ドレッシングは研削加工に使う研削砥石の形状を整える作業のことです。
それぞれの意味はこんな感じで理解すればOKです。
- ツルーイング:砥石の形を整える作業。
- ドレッシング:砥石の切れ味を調整する作業
名前は違いますが、実際は同時に行っているので単に「ドレス」とか「ドレッシング」というだけでツルーイングの意味も含んでいることが多いです。
ただし目的が違うので、それぞれについて少し詳しく解説します。
ツルーイング
ツルーイングとは、砥石の形状を整える作業です。
研削加工を繰り返し行うと、砥石の表面がデコボコして、まん丸じゃなくなります。
まん丸じゃないと研削時の負荷が一定じゃなくなりますよね、するとワークの形状もデコボコしてきます。
ワークの形状が変形してしまう状態を定期的に補正するために、ツルーイングという作業をします。
砥石の形を直すので、「形直し」とも呼ばれます。
ドレッシング
ドレッシングとは、砥石の切れ味を調整する作業です。
切削工具の再研磨に似ていますが、砥石の砥粒を削って、切れ味を微調整します。
荒めの研削加工なら粗めにドレッシングをして、仕上げの研削加工なら細かくドレッシングをして、砥粒自体の凸凹を調節します。
ここで使う装置が「ドレッサー」で、砥石よりも硬いもので削るのでダイヤモンドなどが使われます。
ただしダイヤモンドは熱に弱いので、クーラントをかけて冷却しながらドレッシングをします。
ドレッシング時の研削砥石の回転数、ドレッサーの切り込み深さ、送り速度などがノウハウになっています。
研削加工に使うクーラントについて
「切削油剤基礎のきそ」
私も大学で機械工学を勉強し始めて10年でようやく知った事ですが、「クーラント」とは切削油剤の中の冷却に特化したものの事を言うみたいです。
したがって普段は「切削油剤」「研削油剤」という言い方が正しいですね。
- 不水溶性切削油剤で、潤滑を目的にするのが「切削油」
- 水溶性切削油剤で、潤滑と冷却を目的にするのが「切削液」および「研削液」
- 水溶性切削油剤で、冷却を目的にするのが「クーラント」
といった名称の分類になっています。
研削加工では砥石とワークの接触点(研削点)が高温になるので、研削面に焼け、割れが発生することがあります。
研削加工は熱といつも戦っているので、切削加工よりもジャバジャバと研削液を掛けているイメージです。
研削加工で使う研削油剤では、「潤滑」と「冷却」のどちらも必要です。
種類はA1種(エマルジョン)、A2種(ソリュブル)、A3種(ソリューション)と分類されています。
研削加工は油剤選びの研究みたいなところもあるので、色で分類するところだけ紹介します。
- A1種(エマルジョン):水に溶けると乳白色になる
- A2種(ソリュブル):水に溶けると半透明になる
- A3種(ソリューション):水に溶けると透明になる
上から順に潤滑性能が高いです。
冷却性能は下から順番によくなります。
研削形態の種類
研削形態とは、研削加工時の様子のことを言います。
使用中の砥石の状態をよく観察して、正しい形態に整える事が、研削工程改善につながります。
- 正常型
- 目こぼれ型
- 目詰まり型
- 目つぶれ型
それぞれについて、詳しく解説します。
正常型の研削加工状態
正常型の状態で研削加工をしていると、適切に切れ刃が復活し、研削の作用が維持されます。
研削加工を続けると砥粒の切れ刃の鋭さがなくなってきます。
すると研削抵抗が増加しますが、その力で砥粒が自然に劈開(へきかい:結合力が弱い方向に割れる性質)し、新しい切れ刃が発生します。
研削加工中にこのように切れ刃の鋭さをキープできる状態を「正常型」と言います。
切りくずの溶着も無く、摩耗も少なく、仕上げ面も良好で、高い加工精度が得られます。
目こぼれ型の研削加工状態
砥石の結合度が柔らかい時に、「目こぼれ型」になります。
砥粒を結合しているボンドが研削抵抗に耐えられず、砥粒が取れてしまう状態です。
砥石の能力に対して重研削をしたときに発生します。
目こぼれ型の特徴は、「研削抵抗が小さくなるし、研削温度も低くなるが、砥石形状は崩れ、砥石面が荒くなり、加工精度や仕上げ面が悪くなる」というものです。
砥粒が脱落するので切れ刃は鋭いですが、形状が悪いので理想的な精度で研削加工ができません。
また砥石の摩耗が激しくなるので、工具費が高くなります。
目詰まり型の研削加工状態
目詰まり型とは、砥石にある機構(砥石と砥石の隙間)が切りくずで塞がれてしまい、切りくずの逃げ場がなくなった状態です。
アルミニウム、銅、ステンレスなどの軟らかくて粘り強い材料を研削加工すると起こりやすいです。
切削で言う構成刃先に近い状態ですね。
この状態で研削加工を続けると研削抵抗が大きくなり、ビビりやむしれといった仕上げ面になります。
目つぶれ型の研削加工状態
目つぶれ型とは、砥粒の切れ刃が摩耗して切れ味が低下した状態です。
ボンドの結合度が強すぎたり、砥粒の硬さが足りなかったり、砥石の周速が速すぎたりといった状態で(つまり砥石の能力に対して軽研削をした時に)発生します。
砥粒がどんどん摩耗していくので切れ刃が鋭くなくなり、切れ味が悪くなります。
研削熱が発生したり、研削抵抗が大きくなったりするので、研削焼けの原因やビビりの原因になります。
ただし砥石の摩耗は少ないので、寸法や形状の精度を維持しやすいという特徴もあります。
研削加工後の表面がよくないなと感じたら、研削の形態が正常型になってないことを疑ってみるといいかもしれません。
「研削加工とは」まとめ
本記事では、研削加工の基礎について簡単に解説しました。
研削はとても奥が深く、プロになるのが難しい分野だよなと、個人的には思っています。
しかし精度を決める最後の砦なので、勉強のし甲斐はありますよね。
私も以前は研削盤の設計に少し関わっていたことがありますが、奥が深すぎて目が飛び出ました。
当ブログでは筆者がものづくりについて勉強しながら知ったことを記事に順次反映していっています。
もしご意見、アドバイスなどありましたらお気軽に連絡をください。
将来の夢は、新入社員の教科書みたいなサイトを作る事です。
それでは明日もものづくり、頑張りましょう!