加工条件改善案の考え方について。最適な加工条件って何ですか?
こんにちは、トモ(@Japan_MFG_Tomo)です。
今回は加工条件の改善について考えましょう。
量産系、特に自動車業界で働くと、「年3%の単価低減」みたいな契約条項が入っていることが多いです。
材料や燃料費の値上げもあるので、一部は吸収できてもすべてを吸収することは難しい。
したがって、どこかで改善を加える必要があります。
では、一口に改善と言いますが、一体加工条件を改善する目的は何なのでしょうか?
- コストダウン?
- 生産能力アップ?
- 品質アップ?
全部がつながって社内の収益体制の改善になるんですが、じゃあ一番の目的は何なのでしょうか?
改善の初めに、目的を考えてみてくださいね。
コストダウンのときに考える事
私たちがコストを管理できる部分は、
- 人件費
- 刃具寿命
- 不良率
等があります。
材料も手を加える余地があると言えばあるんですが、市場価格に左右されやすいのと、客先が変更を嫌う事が多いので、ここでは取り上げない事にします。
すると、私たち自身で改善を加えられる部分の中で、一番考えやすいのが、「工程を管理状態にする」という改善。
生産工程が管理状態にある(工程能力がある)と、全検を取り消せるし、もしかしたら刃具の摩耗に傾向が出るかもしれないし、という事で人手を大幅に減らすチャンスが生まれます。
工程が管理状態にあると人件費を抑えられる?
工程が管理状態にあると、全数検査していた物を、統計学をもって抜き取り検査に変更できます。
例えばCpk=1.00の水準にあると、不良は1000個に3個の確率になると言われています。
全数検査するよりも抜き取り検査の方が圧倒的に検査数が少なくなるので、人件費削減に貢献できます。
また、工程が管理状態にあると、変化点に敏感になれます。
平均値が変わった、ばらつきが変わったなど、そこには何かしら変化点があるはず。
生産能力アップをしたいときに考える事
生産能力とは、ここでは単位時間あたりに生産される良品の数と定義します。
生産能力をアップさせるには、人に頼らないところではNCプログラムの調整が最も効果的です。
生産能力に関係する内容
- 加工時間(送り,ツールパス)
- 設備調整時間(刃具寿命)
- 不良率(工程能力)
- 設備の理想:生産し続けられる
- 作業員の理想:作業が不要
- 工程の理想:ツールの遠回りが無い
加工時間を短くしたい
加工時間を短くしたいなら、送り速度を上げる取り組みをします。
小学校でも習うように、時間=距離÷速度で計算できますが、この「速度」にあたるものが送り速度。
もう一つ、加工時間を短くしたいなら、ツールパスの最適化をします。
例えば逃げの距離が一律で10mmあるとしましょう。
その「10mmは合理的ですか?」と疑ってみて、距離を縮めてみる等の取り組みをすると、加工時間を短くできます。
「塵も積もれば山となる」作戦です。(一つ一つの改善効果は微々たるものなので)
設備の調整時間を短くしたい
設備の調整時間は、例えば刃具摩耗補正、刃具交換などです。
刃具を交換している間は設備を動かせないので、その分時間のロスに繋がります。
刃具の寿命が起こらない、刃具摩耗補正のイベントを減らすために、刃具にやさしい加工条件を試すのも手。
不良率を減らして、作った分だけ良品にしたい
生産能力を上げるために、不良品率を下げるのも作戦の一つです。
例えば不良率50%の製造工程と不良率0%の製造工程があるとして、1日に生産できる総数量が同じなら、良品数は倍変わります。
品質向上をしたいときに考える事
量産工程で、品質部門の任務は「不良品を流出させない事」ですが、それだけを目標にすると、全数検査に頼る事になります。
そこで、品質管理から工程管理へ移行し、「不良品を作らない」事を目標にしたらどうでしょうか?
全数検査の取り消し、不良品生産の確率の減少などの改善が進められます。
品質向上をしたいときに考える事
品質向上を考えるなら、加工工程ではこんなテーマを取り上げます。
- 刃具の選定
- 加工条件の検討
- 工程内検査頻度の検討
そのうち、コストをできるだけ抑えるようにするなら、加工条件を検討しつつより良い刃具の検討をし、Cpk評価。
Cpkの数値が十分に大きくなると、不良品を発生させない工程になるので、工程内検査頻度を減らすとか、抜き取り数を減らすとかの改善ができるようになります。
加工条件はどうやって改善する?
加工条件の変更は、
- 加工時間
- 刃具寿命
- 不良率
に影響します。
これらはQCD(品質、コスト、納期)に直結する要素の一つですので、一つの改善が会社への大きな貢献になります。
加工条件を改善して、加工時間を短くしたい
加工時間をものすごく簡単に言うと
加工時間CT=(移動量)/(移動速度)
で計算できます。あれ、これって小学校で習ったあれですよね。速さの公式。
そう、加工時間の計算でも、速さの公式を使って数字を計算するんです。
それが、X座標の移動量とか、送りとか、回転数とかっていう難しい言葉に置き換わっているだけ。
試しに加工プログラムを見てみると、
移動量や移動速度についての数字が載っています。
コードは数行から数百行とかになるので、それを分解して、1行1行座標計算して、速さで割って、計算していきます。
電卓を使って計算するのは大変なので、エクセルで計算できるツールを作りました。
完璧な出来とは言えませんが、社内で「サイクルタイムを6秒縮めたい」というお題が出たときにフル活用して、見事達成したので便利なツールに仕上がったなと思います。
興味がある方はこちらをどうぞ。500円で販売しています。
加工時間は計算できた。じゃあどこの加工時間を短くすればいい?
加工時間の計算をするツールはできましたが、これだけ持っていても自分が使いこなせなきゃ無意味です。
加工時間が短くなっても、品質が極端に悪くなればそれは改善ではなく改悪だからです。
それでは、どこに改善を加えたら良いですか?
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答えは、Cpkが十分以上に高いところ。
もしCpkが1.67よりも大きいなら、不良率はほぼ無いじゃないですか。1000万分の1です。
基本的にはCpkは1.00もしくは1.33で十分と言われています。
なので、1.67よりも更に大きい2.0とかを持っているなら、それは過剰品質の部分。
なので、Cpkをみて1.67よりも大きい数値なら、改善のチャンス!
Cpkの評価方法
Cpkを評価するなら、まずはデータを集めて、分析する工程が必要です。
- 規格値の設定
- データ集め
- 平均と分散の計算
- Cpkグラフの確認
最後に、グラフが変な形をしていないか、Cpkが1.67より十分に大きいかどうかを確認して、改善を加えます。
参考:加工条件の改善の仕方
加工条件を改善するなら、振れ関係、寸法関係は設備の精度にもよりますが、表面粗さは送り、刃先Rを使って理論値の計算ができます。
表面粗さの計算公式は:h= (f2 ) / (8R)
ここで、hは表面粗さ(μm)、fは回転当たり送り(mm/rev)、Rは刃先半径(mm)です。
図面規格と比較して、刃具摩耗による表面粗さ悪化を考慮して、面粗度理論値が規格に対して十分に小さければ試す価値あり。
もし2パス以上の複数に分けているなら、粗を少し攻め気味に、仕上げの条件を落として、、みたいに調整するのもアリです。
加工条件改善は、日本人だから丁寧にできるものだと思う
本記事では、私の過去の経験と、今の現場で見ている事実を元に、「昔は常識だと言われていたけど、場所が変われば常識じゃない」という内容を標準化するために、少しお勉強チックな内容の紹介をしました。
本記事を要約してものすごく簡単に言えば、
- 品質が十分なところは加工速度を上げる
- 品質が十分かどうかはCpkと理論値を見ながら考える
- コストを下げたいなら加工時間、刃具寿命と金額、不良品を考慮する
これだけ抑えていれば十分だと思います。
後は必要な時に本や動画で勉強しなおせばOK、何か興味を持つきっかけになればうれしいです。