焼き入れとは【鋼材に硬さを追加する、日本のものづくりの強み】
焼き入れについて勉強したい人向けの記事です。
日本の焼き入れの歴史は古く、日本刀を使っていた時代から焼き入れは存在していました。
日本の自動車の安全性が高いのも、焼き入れの技術に支えられています。
今回は、日本のものづくりを支える、「焼き入れ」について勉強してみましょう。
熱処理についてまとめページを作りましたので、その他の熱処理については以下のページをのぞいてみてください。
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焼き入れとは(焼き入れってなに)
焼き入れとは、鋼を強く、硬くするために行う熱処理です。
鋼材を赤くなるまで熱して、その後一気に冷やすと硬い鋼材に生まれ変わります。
焼き入れは英語ではQuenching、中国語では焼き入れを淬火と言います。
ちょっと専門的に言うと、焼き入れとは
「オーステナイト」になるまで熱して炭素を入り込みやすくし、急冷することで入り込んだ炭素を閉じ込める作業の事です。
(狭義だと、加熱した鋼材を冷やす部分だけを焼き入れと言います。)
JISではHQと書きます。
焼き入れをすると金蔵は硬くなりますが、同時に脆くなります。
、、、と聞くと、なにか矛盾している気がしますよね。
工業の世界では「硬い」とは、「ひっかきに強い」という意味です。(ダイヤモンドやガラスは「硬い」けど「脆い」材料の例です。)
自動車部品などはひっかきに強く、衝撃にも強い性質が欲しいので、焼き入れに加えて「焼き戻し」という作業までをワンセットの熱処理としています。(ふたつを合わせて「熱処理」と呼びます。)
500℃くらいの温度まで熱してから空冷で冷却する作業。
鋼材に強さ(粘り強さ)を付加してくれます。
JISではHTと書きます。
焼き入れの基本原理、方法(焼き入れのしくみ)
焼き入れの仕組みを簡単に紹介します。
炭素鋼は温度によって金属結晶の構造が変わります。
温度を高くすると赤く変色し、炭素を取り込みやすくなります。
炭素を十分に取り込んだ頃に一気に冷やすと、炭素を取り込んだまま結晶が安定して、硬い鋼材になります。
焼き入れの手順
焼き入れは一般的に、以下の3段階で行われます。
焼き入れの手順
- 加熱
- 保温
- 冷却
少し詳しく解説します。
焼き入れの手順①加熱
鋼材の組織がオーステナイトになるまで炉(英語ではfurnaceとかovenとか言います)で赤くなるまで加熱します。
加熱温度は炭素の含有量によって前後しますが、800℃以上で加熱することが多いように思います。
(基本的な考え方としては、オーステナイト化する温度+30~50℃くらい)
この温度を「オーステナイト化温度」とか「焼き入れ温度」とか、単純に「加熱温度」とか言ったりします。
※焼き入れ不良の原因になるので、前もって錆や汚れをショットブラストまたは洗浄でとり除きます。
焼き入れの手順②保温
炉内が焼き入れ温度になったら、炭素をオーステナイト状態の鉄に固溶させます。
表面よりも内部は遅れて熱が上がるので、内部までしっかり熱くなるまで保温します。
炉内の温度上昇がゆっくりなら保温時間は短くてもいい(表面と内部の温度上昇のスピードが近いから)ですが、熱処理メーカーの実際の操作を見ていると30分近くは保温温度を取れるように設定しています。
焼き入れの手順③冷却
温度均一に温度が上がってオーステナイトに炭素を固溶出来たら、次は一気に冷却します。
(狭義では、これを「焼き入れ」と呼びます)
炭素を固溶したオーステナイトは、「マルテンサイト」という組織に変態します。
どれくらい急冷すればいいかというと、1秒に160℃以上のスピードが求められます。
もし冷却スピードが遅いと、マルテンサイト変態する前に別の変態(パーライト、ベイナイト、フェライト)が起きてしまい、マルテンサイト以外の組織が混入するので注意します。(硬度不足などの問題が発生する)
焼き入れに使う冷却材
焼き入れは温度を一気に下げるのが肝になりますが、そのために使われる冷却材も研究が進んでいて、複数の種類があります。
- 水
- 油
- 水溶液
- 塩浴
- 加圧ガス
- 空気
冷却材の冷却性能は水が一番早くてコストが安いですが、焼き割れや変形の不具合が起きる可能性が高いというデメリットがあります。
焼き入れの効果(焼き入れをしたらどうなるの)
焼き入れをすると、鋼材が硬くなります。
焼き入れで得られる硬さの最大値は炭素の含有量で決まっていて、他の合金元素の影響は少ないとされています。
硬さ以外の性質の変化としては、引張強さが向上します。
引っ張ってもちぎれにくくなるんですね。
ただし焼き入れだけをした状態だと非常に脆いので、硬さのわりに摩耗に弱くなります。
したがって焼き入れをした後は「焼き戻し」処理をして、硬さと強さを両立した状態にします。
焼き入れの種類(どんな方法があるの)
焼き入れの種類には以下の5種類の方法があります。
- 浸炭焼入れ
- ズブ焼き入れ
- 表面焼き入れ
- 真空焼き入れ
少しだけ、詳しく紹介します。
浸炭焼入れ
浸炭焼入れとは、炭素の足りない鋼に炭素成分を追加して焼き入れするという焼き入れ方法です。
表面だけ炭素濃度が高くなるので、「外はサクッと、中はモチっと」な焼き入れができます。
浸炭焼入れについては別の記事で詳しく解説しているので、興味がある方はぜひ。
全体焼き入れ
全体焼き入れは、別名「ズブ」ともいわれます。
鋼材の内部まで熱を加えて素材全体を硬くすることを目的とした焼き入れ方法です。
引張りや圧縮に強くなります。
表面焼き入れ
表面焼き入れは、鋼材の表面だけを焼き入れする方法です。
表面だけを焼き入れすると、「鋼材の表面は硬いけど内部は変化なし」という状態を作れます。
摩耗に強くするために表面を硬く、粘り強さを確保するために内部はそのままみたいな要求の時に選ばれます。
代表的な方法としては高周波焼き入れがあります。
電磁誘導と抵抗で熱を起こして、自信を加熱する焼き入れ方法です。
自動化しやすく、量産しやすいので自動車ラインでよく使われます。
高周波焼き入れについて詳しく紹介している記事もあるので、興味がある方はぜひ。
真空焼き入れ
真空焼き入れは、ワークを酸化させたくない時や品質よく焼き入れしたい時に利用される焼き入れ方法です。
焼き入れ炉内を「ほぼ真空」の状態にして製品を加熱して、窒素ガスで冷却します。
焼き入れ炉の中には酸素が無いので酸化のリスクが無く、綺麗な表面になります。
- 焼き入れ後の表面の色も品質要求になる
- 焼き入れを一番最後の工程にしたい
などの要求があるときに真空焼き入れを選ぶことがあります。
ただし品質が良い分コストは上がるので、タイミングは的確に選ぶ必要があります。
焼き入れの欠陥(気を付けることはある?)
焼き入れは金属に熱を加えて品質を改善するのが目的ですが、熱も外力みたいなものなのでたまに悪さをします。
代表的なものは以下の5つ
- 焼き入れ応力
- 焼き割れ
- 置き割れ
- 研削割れ
- ひずみ
それぞれを簡単にに解説します。
焼き入れ応力
焼き入れ応力は、焼き入れによって内部に発生する応力で、残留応力のひとつです。
冷却時に全体を均一に冷やせなかった時に「熱応力」が発生し、金属組織が変わるとき(変態する時)に「変態応力」が発生します。
金属は熱を加えると膨張、冷却すると収縮して、割れの原因になります。
この応力が起き割れや研削割れなどの原因になります。
焼き割れ
焼き割れは焼き入れの工程中に発生する割れです。
焼き割れの対策は以下のようなものがあります。
- 均一に冷却できるような形状にする
- 二段焼き入れなど、均一に冷却できるような条件にする
- 表面に応力集中になるような欠陥が無いようにする
- 焼き入れ温度を上げ過ぎない
などがあります。詳しくはWikipediaにもたくさん情報が載っています。
置き割れ
起き割れは、焼き入れが終わったワークを常温で置いておくと自然に割れてしまう欠陥の事を言います。
残留オーステナイトがマルテンサイト変態するときに応力のバランスが崩れる事が原因になるので、サブゼロ処理をするとか、焼き入れ後即焼き戻しをするとかの対応が有効とされています。
研削割れ
研削割れは、焼き入れ完了後に研削加工したら割れる現象の事です。
100度近くで起こる「第一種研削割れ」と300度近くで起こる「第二種研削割れ」があって、これらを避けるために低温焼き戻しが有効とされています。
ひずみ
熱を加えることで製品が変形してしまうことをひずみと言います。
寸法が膨張するパターンとワークが曲がるパターンがあって、前者は「変寸」後者は「変形」と言います。
原因は焼き入れの応力なので、応力焼きなましをしたり、熱処理時のワークの置き方を工夫したりといった対応を取ります。
焼き入れについてまとめ
焼き入れは鋼材をを熱して急冷して、硬くする作業の事です。
温度管理、炭素の量など今でも研究がされている非常に難しい分野ですが、日本のものづくりの核になる技術の一つなので、軽くでもいいので知っておくと技術者同士で話が盛り上がります。
当ブログでは筆者がものづくりについて勉強しながら知ったことを記事に順次反映していっています。
もしご意見、アドバイスなどありましたらお気軽に連絡をください。
将来の夢は、新入社員の教科書みたいなサイトを作る事です。
それでは明日もものづくり、頑張りましょう!
Comment
材料物理数学再武装にものっていたクボリノフの式も結構重宝するよね。