高周波焼入れとは【高周波の電流を使って行う焼き入れ:生産効率〇】
高周波焼き入れについて、これから勉強していく人のための記事です。
高周波焼き入れって何?材質に縛りはあるの?みたいなことを答えていきます。
- 高周波焼き入れとは
- 高周波焼き入れの特徴
- 高周波焼き入れの原理
- 高周波焼き入れのメリットとデメリット
などなど、本記事では、高周波焼き入れの基本について解説しています。
高周波焼き入れを一言でいうと、「高周波電流から発生する磁力で行う焼き入れ」です。
どうですか?さっぱりわからないですね。
- コイルと電流によって熱処理条件を設定できる
- 設備が小さいので加工工場だけで熱処理まで完結できる
- 焼きを入れたい局部だけ焼き入れができる
- 寸法の変化が小さい
などの特徴を持っていて、自動車や船、工作機械などの軸や歯車によく利用されています。
それでは、内容を詳しく見ていきましょう。
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高周波焼入れとは
高周波の誘導電流を利用した焼入れです。
鋼材の表面だけを急速に加熱して、その後すぐ冷やすという作業によって、表面を硬化させることができます。
コイルの場所だけ高温になるので、部分的な焼入れが可能です。
使用するのは電力だけなので、大掛かりな焼き入れのように環境に負荷を与えるガスを発生させません。
高周波焼き入れは英語ではHigh frequency quenchingと言い、中国語では高周波焼き入れを(高频淬火)高頻淬火と言います。
高周波焼入れの特徴
▼高周波焼き入れの特徴は、以下のようなものがあります。
- 温度上昇が早い
- 条件設定に自由度がある
- 環境に優しい運転
- 停止が早い
- 自動化ができる
- スペースを取らない
これだけではなく、他にもこんな特徴もあります。
コイルでおおわれた場所だけの部分的な焼入れが可能
高周波焼き入れ後のワークは表面硬さが高いので、耐摩耗性、耐疲労性が良い
内部は軟らかいままなので、トルクがかかる部品の焼入れに適している
焼入れの深さはコイルに流す周波数を調整するだけで良いので、焼入れ深さの調整がしやすいのも特徴です。
メリットが多いので、図面を見てみると高周波焼き入れ指示をよく見かけます。
高周波焼入れのプロセス面での特徴
高速で加熱できる(熱効率が優れている)ので作業時間が短く済みます。
作業時間が短いので省エネ、省力化でコスト低減も期待できます。
周波数や出力などを変更することで焼入れの仕上がりを調整することができます。
設備がコンパクトなので、加工ラインの中に高周波焼入れ設備を導入できます。結果加工ラインの中で加工~熱処理が完結するので、製造のリードタイムを減らしたり中間在庫を減らしたりする効果が期待できます。
工程のイメージは家庭用のIH調理器みたいな感じなので、環境の負荷も少ないです。(CO2排出量が少ない)
高周波焼入れをする製品例
高周波焼き入れを適用する製品には、以下のようなものがあります。
- シャフト
- ピン
- レール
- クランク、カム
- 歯車
- エンジン部品
- ステアリング部品
など、耐摩耗性、靭性を求められる自動車部品、機械部品に使われます。
重要保安部品(故障すると命に関わる重要な部品)の熱処理に活用されています。
高周波焼入れができる材質
高周波焼入れができる材質には、以下のようなものがあります。
- 炭素鋼:S45C S50C S55C
- 炭素工具鋼:SK3
- 合金鋼:SCM435 SCM440 SNCM439
- 合金工具鋼:SKS3 SKD11
- 軸受鋼:SUJ2
- ステンレス鋼:SUS420J2 SUS440C
など、炭素の含まれた鋼材です。
あとは、電気で発生した磁力を使って加熱するので、銅などの非磁性体(磁化されにくい)金属には使用できません。
高周波焼入れの設備
高周波焼入れに使う設備は、次のようなものがあります。
- 高周波発振機
- 加熱コイル
- 冷却装置
物凄く簡単に説明すると、発熱させるための電力装置、コイル、そして冷却材を循環させる装置からできています。
高周波焼入れの工程
高周波焼き入れの工程の流れを紹介します。
- 形状や材質別の段取り
- 高周波焼入れ
- 硬度の確認、変形や割れの有無の検査
- 焼き戻し
- 検査
通常の加工工程と同じように、段取りをして、機械で焼き入れをして、検査します。
ただし焼き入れ工程は非常に重要な工程なので、「割れが無いか、変形が無いか」を検査する工程がセットになっているのが特徴です。
通常の焼き入れ工程だと
- 前洗浄
- 予熱
- 加熱
- 保温
- 焼き入れ
- 後洗浄
みたいな流れになりますが、ラインの中で高周波焼き入れをする時はものすごく簡潔化されていることも多くて、作業者が洗浄機にいれて出てきたら後は自動で完了してるみたいな感じになっていたりします。
高周波焼入れの原理
コイルに高周波の電流を流すと、磁束が発生します。
鋼の表面に渦電流が流れますが(表皮効果:渦電流が金属の表面にのみ集まる効果)、抵抗によって発熱して、表面が急速に高温になります。
熱のエネルギーはE=IV=I2Rで表されます(理科の授業で習ったような気もする、、、)
このジュール熱を使って金属表面がオーステナイトになるまで加熱、しばらく保存して、急冷します。
工場で1000kWほどの電力を使えるので、あっという間に部品の表面だけを焼入れ温度(800℃くらい)まで加熱できます。
焼入れ自体は昔から存在していて、日本刀の焼入れが一番有名だと思います。
鋼材を赤くなるまで加熱して、一気に水や油で急冷すると硬さが得られます。
昔の人たちはこの「焼入れ」という処理のおかげで強い日本刀を作っていました。
高周波焼入れも焼入れの原理は同じですが、加熱の仕方だけ、コイルと電流を使うという部分で異なります。
したがって焼入れ後そのままだと靭性(粘り強さ)が下がるので、200℃程度で焼き戻しをします。
高周波焼入れの用途
高周波焼入れは鋼材の任意の一部分の、表面だけを焼入れすることができます。
この特徴から「表面硬化法」とも呼ばれています。
表面だけを焼入れするので鋼材の内部は元々の軟らかさを兼ね備えているので、硬さと粘り強さを両立した状態にできます。
高周波焼入れは工作機械、自動車、建機、船、産業機械などの軸、歯車、ベアリングなどの部品に利用される焼入れ方法です。
また高周波焼入れ独特の方法として、コイルの材料、巻き数や出力などの条件によって焼入れの出来上がり状態が決まるので、微調整もしやすいし一度作れば量産もしやすくなります。
高周波焼入れは、こんな加工に適しています。
- 寸法はずれてほしくないけど、きっちり硬くなってほしい
- 硬さと粘り強さを両立したい
- 量産できる方法が好ましい
こんな目的に応えてくれます。
高周波焼入れによって焼入れした部品はねじりに強いのでエンジン、変速機、ステアリングなどの重要な部品に適用されています。
高周波焼入れの種類
高周波焼入れの方法には以下の方法があります。
定置焼入れ
シングルショット高周波焼入れ
縦型移動焼入れ
横型移動焼入れ
それぞれについて解説します。
定置焼入れ
焼入れ時に移動を伴わない焼入れ方法です。
シングルショット高周波焼入れ
段付きの軸物など、一定の条件での焼入れだと不十分、または焼入れしすぎになる場合に活用されます
縦型移動焼入れ
焼入れをする鋼材またはコイルを縦方向に移動させて行う焼入れ方法
長い部品(長尺もの)に活用されます。
横型移動焼入れ
焼入れをする鋼材またはコイルを横方向に移動させて行う焼入れ方法
主に平面を焼入れする時に使います。
高周波焼入れのメリットとデメリット
この章では、高周波焼き入れのメリットとデメリットについて紹介します。
高周波焼入れのメリット
▼高周波焼入れのメリットは、以下のようなことが言われています。
- 表面には圧縮方向の残留圧力が大きいので、耐疲労性にプラスに働く
- 短時間で過熱ができるので、酸化や脱炭がほとんどない
- スケールが少なくて表面が綺麗
- 他の焼入れ方法に比べてひずみが少ない
- 局部だけの過熱ができて、焼入れ条件の調整が簡単
- ねじり強度、ねじり疲労強度が優れているので、軸類によく使われる
- 自動化できるので、生産ラインにも組み込める
- 近年はほぼ限界水準まで焼入れができる
- 表面硬さをHRC55~60くらいにできる
- 組織が微細で靭性も高くなる
- 電流を流す時間によって制御できるので、加熱温度や時間を自由にコントロールできる
- コイルに鋼材を通すだけで焼入れが完了するので、省スペース化できる=部品の加工ラインにおける=加工と熱処理を同じ工場で完了できる
かなり浸透している方法だけあって、メリットはたくさんあります。
高周波焼入れのメリット
一方、高周波焼入れのデメリットは以下のようなものがあります。
- 急加熱、冷却のため焼入れのムラが生じるので割れに注意が必要
- 組織の分布が不均一な状態になる事があるので、硬度バラツキも確認が必要
- 大きな材料の場合、出力の大きな電源がないと焼入れができない
- 複雑な形状のものは渦電流が一定にならないので、場所によって温度差が出る=焼入れのムラが大きくなる
当ブログでは筆者がものづくりについて勉強しながら知ったことを記事に順次反映していっています。
もしご意見、アドバイスなどありましたらお気軽に連絡をください。
将来の夢は、新入社員の教科書みたいなサイトを作る事です。
それでは明日もものづくり、頑張りましょう!