【靭性と硬さを両立】浸炭焼入れとは【特徴、目的などを一気に解説】
浸炭焼入れについて勉強したい人向けの記事です。
「浸炭」って何?どうやってやるの?みたいな内容から紹介します。
浸炭焼入れとは、「鋼材の表面に炭素を浸透させて、その炭素を使って焼き入れをする」という方法です。
内部を柔らかくて、表面が硬い特徴を持たせたい製品に利用されます。
材料は低炭素鋼がメインです。高炭素鋼も事例がないわけではないけど、一般的ではありません。
それでは、浸炭焼入れについて詳しく見ていきましょう。
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浸炭焼入れとは
浸炭焼入れとは、鋼の表面に炭素を浸透させてから行う焼入れで、耐摩耗性を強くする目的があります。英語ではCarburizingと言います。中国語では渗碳淬火(滲碳淬火)と言います。
加工性の良い低炭素鋼や低炭素合金鋼を機械加工した後に、表面を固くする(摩耗に強くする)ときに使います。
しかし低炭素の鋼材はそのままだと焼きが入らないので(焼入れは炭素の量が関係)、表面に炭素をしみこませて、表面だけ炭素量が多い状態にしてから焼入れをします。
浸炭焼入れの結果、表面だけ炭素が侵入して焼入れ硬化し、内部は炭素が浸透しないので軟らかい組織のままとなります。
▼簡単にまとめると、こんな感じです。
浸炭焼入れは低炭素の鋼に使用され、表面を固く、内部は軟らかい状態にして耐摩耗性と靭性(粘り強さ)を両立させる焼入れ方法。
焼入れによる硬さの変化は炭素量に強く依存するので、浸炭焼入れでは炭素が浸透している表面だけが硬くなります。
実は「浸炭」と「焼入れ」は別の工程ですが、「浸炭」だけで処理することはほとんどなく、通常は浸炭した後に焼入れを行います。
さらに浸炭焼入れ後も通常の焼入れと同じように表面が硬くてもろい状態になるので、浸炭焼入れの後には焼き戻しも行います。
また浸炭後の後処理によって表面層と内部の間に応力が生じ、これが割れに対する抵抗性になります。(参考:Wikipedia)
浸炭焼入れの特徴
浸炭焼入れの特徴は、以下のようなものがあります。
- 低炭素鋼を焼入れできる
- 表面だけを硬化できる
- 内部は軟らかいまま
- 表面の硬度が上がる
- 耐摩耗性が上がる
- 耐疲労強度が上がる
- 対面圧強度が上がる
- 靭性も併せ持つ
- 応力が割れの抵抗性を示す
一般的な焼き入れでは鋼材にもともと含まれている炭素を利用しますが、浸炭焼入れは炭素を後から付加するという特徴があります。
粘り強さと硬さを両立したい時に浸炭焼入れが選ばれます。
浸炭焼入れの種類
浸炭焼入れには種類があって、浸炭を行う方法によって名前が変わります。種類にはこれらのものがあります。
- 固体浸炭
- 液体浸炭
- 滴下式浸炭
- ガス浸炭
- 真空浸炭
- プラズマ浸炭
それぞれについて、簡単に解説します。
固体浸炭
固体浸炭は「木炭」を炭素の発生源とします。
鋼材と木炭を一緒に密室に閉じ込めて同時に加熱すると一酸化炭素COが発生します。
この一酸化炭素は鋼材に炭素を付与する効果があるので、一酸化炭素ガスによって鋼材が浸炭されます。
反応を促進させるために炭酸イオンを(CO32-)含む化合物(例えば炭酸ソーダ:Na2CO3)を20~30%程度添加することもあります。(反応促進剤)
ただし加工品質のばらつきがあるので、現在は廃れていると言われています。
液体浸炭
シアン化ソーダ(NaCN)またはシアン化カリ(KCN)を主成分として塩浴(高温で個体を融かした液体)で浸炭を行います。
この場合窒素も侵入するので「浸炭窒化処理」になります。(化学式にCとNが入っているため)
シアンが酸素と反応して更に熱分解してCOが発生します。これが浸炭させる効果を持ちます。
滴下式浸炭
メタノールなどの有機系の液体を熱分解して行う浸炭焼入れ方法です。
変成炉が不要なのが特徴で、炉内に直接メタノールを滴下することで浸炭用のガスが得られます。
メタノールは熱分解によって一酸化炭素(CO)と水素に変化し、発生した一酸化炭素が鋼材と結びついて浸炭されます。
浸炭ガスの炭素濃度を増やすために、プロパンやブタンなどのガスを「エンリッチガス」として追加することもあります。
ガス浸炭
二酸化炭素、水素、メタンを主成分とするガスによって浸炭をします。
- 天然ガス
- 都市ガス
- プロパン
- メタン
- ブタン
などを変成して作る浸炭性ガス(RXガス、DXガス)が充満した炉の中で鋼材を加熱して、浸炭焼入れをします。
品質管理、生産性、公害の大きさなどの観点から現在はこの方法が普及しています。
プロパンガスを流入してCP(炭素ポテンシャル:気体中の炭素含有量)を上げたり、空気を流入してCPを下げたりという方法をとりますが、粒界酸化(鋼材に酸素が浸透して起きる酸化)を防ぐために、空気の代わりに窒素を流入してCPを下げる方法も開発されています。(熱処理工場には窒素が豊富にあるので)
真空浸炭
真空にした炉内に浸炭用のガス(炭化水素系:アセチレンガスをよく聞きます)を注入して加熱する浸炭焼入れの方法です。
鋼材を粒界酸化(内部酸化)させずに健全な浸炭層を得たい場合に選ばれます。
- ガス浸炭よりも早い
- 均一に浸炭される
- 疲労強度が高い
- 品質に影響する因子が少ない
- 日本と海外の品質差が少ない
- 合金鋼はセメンタイトの析出に注意が必要
等の特徴があります。
プラズマ浸炭
プラズマ浸炭は、イオン浸炭ともいわれます。
真空炉内を浸炭温度まで加熱、メタンなどの炭化水素系ガスを流入し、その後高電圧(数百ボルト)をかけるとグロー放電が発生し、プラズマの中でイオンが鋼材に浸透します。
炉体を陽極、鋼材を陰極にして、一気に高電圧をかけるとイオンが発生します。
メタンやプロパンなどを含む300Paの希ガス雰囲気の中で浸炭処理を行います。
浸炭焼入れに使う設備
浸炭焼入れでは、炉(英語ではfurnace, ovenなどと言います)を使います。
- 焼入れ炉
- 真空焼入れ炉(真空焼入れの場合)
- ガス変成炉(ガス焼入れの場合)
炉には加熱装置が付いているので、それで温度を上昇させて、浸炭させるための物体は別で用意します。(ガス浸炭ならガス管等)
鋼材が錆びていたり汚れていたりすると焼きが入らないので、先にショットブラストや洗浄機で表面をきれいにします。
焼入れが終わったら洗浄して、焼き戻しをします。
浸炭焼入れのできる材質、材料
浸炭焼入れができる材料には、以下のようなものがあります。
- S09CK
- S15CK
- S20CK
- S10C
- S20C
- SCM415
- SCM420
など、低炭素鋼に行われます。(一部高炭素鋼でも、「焼入れ後の硬さが出やすい」として浸炭する事もあるらしいですが、一般的には)
数字を使って覚えたい場合は「C量が0.20%以下のものに適用する」と覚えておけばいいです。
また、「低炭素鋼」についてはこれらのJIS規格が参考になると思います。一覧にしておきました。
参考:日本産業標準調査会(https://www.jisc.go.jp/)
JISB0160 | 歯車-歯面の摩耗及び損傷-用語 |
JISB1186 | 摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット |
JISB1250 | 一般用ボルト,小ねじ及びナットに用いる平座金-全体系 |
JISB1256 | 平座金 |
JISB1753 | 歯車装置の受入検査-空気伝ぱ音の試験方法 |
JISB1760-1 | 歯車-FZG試験方法-第1部:潤滑油の耐スカッフィング性能 FZG試験方法A/8.3/90 |
JISB6905 | 金属製品熱処理用語 |
JISB6914 | 鉄鋼の浸炭及び浸炭窒化焼入焼戻し加工 |
JISG0201 | 鉄鋼用語(熱処理) |
JISG0202 | 鉄鋼用語(試験) |
JISG0555 | 鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法 |
JISG0557 | 鋼の浸炭硬化層深さ測定方法 |
JISG4051 | 機械構造用炭素鋼鋼材 |
JISG4053 | 機械構造用合金鋼鋼材 |
JISH8619 | 電気すずめっき |
JISH8624 | 電気すず-鉛合金めっき |
JISK2519 | 潤滑油-耐荷重能試験方法 |
浸炭焼入れをする製品
浸炭焼入れをする製品の例としては、以下のようなものがあります。
- 自動車部品(エンジン、クラッチ、ディファレンシャル、トランスミッションの部品)
- 船舶部品
- 産業機械部品
- 歯車の歯の部分
浸炭焼入れの目的は「硬くて、強い(摩耗に強くて人生もある)」ことです。
接触し、ねじりの力がかかる部品に浸炭焼入れをします。
浸炭焼入れの「浸炭」と「脱炭」の意味
焼入れを勉強すると「浸炭」や「脱炭」という言葉に出会います。
どんな意味でしょうか?
答えは字のまんま「炭素が浸透する」か「炭素が抜ける」の違いです。
焼入れをする時に炉内のCP(炭素ポテンシャル:気体中の炭素の割合)が高ければ気体から鋼材へ、逆にCPが低ければ鋼材から気体へ炭素が流れていくイメージを持っておけばOKです。
当ブログでは筆者がものづくりについて勉強しながら知ったことを記事に順次反映していっています。
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将来の夢は、新入社員の教科書みたいなサイトを作る事です。
それでは明日もものづくり、頑張りましょう!