熱処理とは【熱を加えて鋼材の性質を変える処理。まずは全体像を紹介】
熱処理について勉強したい人向けの記事です。
- 熱処理ってよく聞くけど詳しくは分からない
- 熱処理の目的って何だろう
- 熱処理にはどんな種類があるの?
みたいな疑問にお答えします。
熱処理は製品の最重要部分(正常な動作や人の生命に関わる部品)に使われることの多い操作なので、熱処理は専門の知識がたくさんあります。切削加工や研削加工のように見た目では分からない変化が起きているので、不具合が発覚するのは市場に出てからで、大規模なリコールになる可能性もあります。
なので今回は熱処理の全体像から勉強していきましょう。
熱処理とは
熱処理とは、鋼材に「加熱」と「冷却」を与えて性質を向上する加工のことです。
加熱する温度や、保温時間、冷却の方法や冷却のスピードなどの条件を変えることによって、目的の性質をもった鋼材に仕立てます。
英語ではHeat treatment、中国語では热处理(熱處理)と言います。
日本金属熱処理工業会(http://www.netsushori.jp/comment/Netsusyori.pdf:PDFファイルです)では、熱処理を「赤めて冷ます事」と紹介されています。
さらに日本産業標準調査会(https://www.jisc.go.jp/index.html)、つまりJIS規格では、熱処理をこう定義しています。
3.7.4熱処理(heat treatment)
個体の鉄鋼製品が全体として又は部分的に熱サイクルにさらされ、その性質及び/又は組織に変化を来すような一連の操作
簡単に言えば、「熱を加えて性質を変える事」を熱処理と言います。
熱処理の目的
熱処理の大きな目的は「性能を向上させる」ことですが、どんな性能が向上できるのでしょうか。
熱処理の目的は、大きく分類すると3つに分かれます。
- 硬くする
- 金属組織の調整
- 残留応力除去
熱処理の1つ目の目的は「固くすること」です。
固くすると部品の強度が上がったり、摩擦ですり減りにくくなったりします。
熱処理の2つ目の目的は「組織の調整」です。
金属を分子のレベルで見てみると、結晶構造や化合物の分布などによって性質が異なることがわかります。
ほしい性質を確実に得るために、熱を加えて組織を整えます。
3つ目の目的は、「残留応力の除去」です。
残留応力は見えない力ですが、部品を加工すると知らぬ間に変形していたり、欠けたり、悪さをする原因が、残留応力です。熱処理によってこの残留応力を除去することができるので、残留応力除去のための熱処理もよく利用されます。
熱処理の種類
熱処理は大きく分けると「全体処理」と「表面処理」に分けられます。
全体処理
全体熱処理とは、鋼材全体の性質を変える熱処理です。
- 焼入れ
- 焼き戻し
- 焼きなまし
- 焼きならし
- サブゼロ処理
- 固溶化熱処理
- 時効硬化処理
などがあります
表面熱処理
表面熱処理は、鋼材の表面だけ、性質を変える熱処理です。
内部組織はそのままなので、素材本来の特性と熱処理の特性を併せ持った材料になります。
- 高周波焼入れ
- 火炎焼入れ
- 浸炭焼入れ
- 窒化処理
- レーザ焼入れ
など
代表的な熱処理
一般的に「熱処理」と言えば下の4つのどれかを指します。
- 焼入れ
- 焼き戻し
- 焼きなまし
- 焼きならし
それくらい有名な熱処理なので、これらについて少しだけ掘ってみてみましょう。
焼入れ
焼き入れは、英語ではQuenchingと言います。中国語では焼き入れを淬火と言います。
焼き入れとは、鋼材を固く、強くするために行う熱処理です。
炭素鋼を加熱、オーステナイト組織になったら一気に冷やして、マルテンサイト化させます。
難しいですよね。
熱処理の用語には「オーステナイト」とか「マルテンサイト」とか、「ソルバイト」とか、色んな名前が出てきますが、全部鋼材の組織についてです。
炭素鋼は温度によって「面心立方格子」と「体心立方格子」が入れ替わる性質を持っています。
「オーステナイト化する」とはつまり「面心立方格子になる」という意味で、面心立方格子になると原子間の隙間が広がって、中に炭素原子が入りやすくなります。
「マルテンサイト化する」とは「オーステナイト化した鋼の中に炭素が入ったけれど、冷却速度が速すぎて「体心立方格子に戻り切れなかった」状態を表します。
このマルテンサイトが、鉄鋼材料の中で最も硬い性質を持っていますが、同時にもろい組織でもあります。
「マルテンサイト化した金属は硬くてもろい…」と言われても、なんか矛盾して聞こえますよね。
実は言葉の定義の問題で、よくみんな悩みます。
工業の世界では、「硬い」というのは「傷がつきにくい」という意味で使われます。
ダイヤモンドとか、ガラスを想像してほしいですが、硬くてもろいってあんな感じです。
硬いのは嬉しいけど脆いのは困るので、「焼き戻し」作業もワンセットで行う(焼き入れ焼き戻し)のが普通です。
焼き戻し
焼き戻しは、英語ではTempering、中国語では焼き戻しを回火と言います。
焼き戻しとは、焼入れを行った後の鋼材の硬さを調整する作業です。
焼入れをすると鋼材は固くなりますが、「脆く壊れやすい」状態です。
硬くて脆い材料に粘り強さを追加するのが、焼き戻しです。
鋼材は400℃くらいの温度まで加熱すると粘り強さが出てきます。
「粘り強さ」っていう言葉も難しいですよね。簡単に言うと、「壊れにくさ」です。
人間も柔軟性(=粘り強さ)があるとケガ(=破壊)しにくくなりますよね、あんなイメージです。硬いものは壊れやすいので、温めて柔らかくすると覚えておけば理解しやすいかなと思います。
焼き戻しでは「ソルバイト」という単語がよく出てきます。
550℃くらいで焼き戻しをすると、軟らかくて衝撃に強い性質が得られます。
焼き戻し処理は自動車部品などによく利用されます。
焼きなまし(焼鈍)
焼きなましは英語ではAnnealingと言います。中国語では焼きなましを退火と言います。
焼きなましとは、鋼材を軟らかくさせる処理です。
焼入れの反対の効果を狙っていますね。
焼きなましの方法はいくつか種類がありますが、共通していることは以下の2点です。
- 組織を完全にオーステナイト化させる
- オーステナイトをパーライトに変える
焼入れでは冷たい水や油に付けて「ジュッ」と一気に急冷しますが、焼きなましではゆっくり冷やします。
違いは冷却するスピードだけです。
焼入れ:加熱→オーステナイト変態→急冷
焼きなまし:加熱→オーステナイト変態→徐冷
焼きならし
焼きならしとは、鋼材を「ノーマルな状態」にする処理です。(なので英語ではNormalizingと言います。中国語では正火と言います。)
方法は以下の2ステップです
- 鋼材をオーステナイト状態になるまで加熱する
- その後常温まで、空冷(大気中で冷却)します
熱処理の理論
ここでもう一度熱処理の定義を思い出してみましょう。
日本金属熱処理工業会では、「赤めて冷ます」と定義していましたね。
鋼材はおよそ700℃以上になると赤くなります(オーステナイトに変態)
鋼材がオーステナイト化した後:
- 急冷する→焼入れ
- 炉令する→焼きなまし
- 空冷する→焼きならし
急冷すると硬くてもろいので、焼き戻しで粘り強さを取り戻す
基本はこれだけです。
もう少し専門的に勉強しようとするとFe3Cの平衡状態図を見ながら「●●変態点」とか出てきますが、担当者以外は知らなくてもある程度話についていけるので、参考にWikipediaで見つけた画像を貼っておきます。
(画像はWikipediaより)
熱処理のポイント
最後に、「熱処理とは」についてのまとめです。
熱処理とは:加熱+冷却で鋼材の性質を変える処理
熱処理の効果:実用に合わせて鋼材の性質を調整できる
処理の方法によって得られる効果が変わります。
▼熱処理の名前もおさらいしておきましょう。
- 焼入れ:オーステナイト化するまで加熱→急冷
- 焼きなまし:オーステナイト化するまで加熱→炉令
- 焼きならし:オーステナイト化するまで加熱→空冷
※焼き戻しは焼入れしたものをもう一回温める作業
こんな感じで覚えれば覚えやすいかなと思います。
本記事では熱処理の全体像について解説しました。
関連記事もあるのでもっと詳しく知りたい方はぜひ参考にしてくださいね。
当ブログでは筆者がものづくりについて勉強しながら知ったことを記事に順次反映していっています。
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将来の夢は、新入社員の教科書みたいなサイトを作る事です。
それでは明日もものづくり、頑張りましょう!