焼き戻しとは【金属に粘り強さをプラスして壊れにくくする処理】

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焼き戻しとは
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焼き戻しについて勉強したい人向けの記事です。
焼き戻しについて勉強している学生や、新入社員の方に向けて書いています。

この記事でわかる事
  • 焼き戻しとは
  • 焼き戻しの目的
  • 焼き戻しの種類
  • 焼き戻しの注意点

などなど、焼き戻しに関係する基礎の知識を詰め込みました。

 

それでは、一緒に勉強していきましょう。

 

熱処理についてまとめページを作りましたので、その他の熱処理については以下のページをのぞいてみてください。

 

 

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熱処理関係については、私はこの本を自信をもってお勧めします。
過去に大手自動車関連メーカーの熱処理の工程監査を本書で勉強した内容を元にすべて乗り切った実績があるので、基礎はこの本だけで十分です。

その後実践での勉強を通して知識を深めていけば、熱処理に関して少し理解してる状態になれます。

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焼き戻しとは

 

焼き戻し(英語ではTempering)とは、鋼材に粘り強さを付加するために行う熱処理です。
JISではHTと表記します。中国語では焼き戻しを回火と言います。

 

焼入れをすると鋼材は硬くなりますが、同時にもろくなります(壊れやすい)。
焼入れをして硬くなった鋼材に適度な強度を加える(靭性を上げる)ために、焼き戻しをします。

 

基本的には焼き戻し単体で処理を行うことは少なくて、

「焼入れ」+「焼き戻し」をワンセットで行います。
(このワンセットの処理を、そのまま「焼き入れ焼き戻し」と言います。)
(焼き入れ焼き戻しのうち、硬さ向上ではなく組織の調整を目的とするものを「調質」と呼びます。)

 

焼き入れについてはこちらの記事を参考にしてください
焼き入れについて勉強する

 

 

▼熱処理の操作と目的の違いを簡単にまとめておきます。

熱処理の種類
  • 焼入れ:オーステナイト化温度→急冷してマルテンサイトへ
  • 焼戻し:700℃以下の温度で加熱→ソルバイトorトルースタイトへ
  • 焼きなまし:オーステナイト化→炉冷してパーライトへ
  • 焼きならし:オーステナイト化→急冷してパーライト+フェライトorセメンタイトへ
熱処理の目的

 

焼き入れ焼き戻し工程で頻出する、鋼材の「硬い」とか「脆い」とか「粘り強い」という単語の意味、分かるようでわからないんですよね。
私も大学のテストで上手に答えられなかった記憶があります。

 

日本語なのに分かりづらいこれらの単語、一般的な意味と若干定義が違うような気がするので、軽く解説します。

 

焼き入れ焼き戻し工程の頻出単語「硬い」とは

 

焼き入れをすると「硬くて脆い組織になります」

硬いけど脆いって何、、、?ってなりますよね。
まずは「硬い」の定義ですが、こう捉えると理解しやすいで。

 

「ひっかき傷に強い」

 

焼き入れをする場所を見てみると、歯車やレールなど、擦れる部分に多く採用されていることが分かります。
単純に「ぽきっと折れない」事を求めているだけじゃなくて、引っ掻いて傷がつく(削れる)リスクを減らすために焼き入れをします。

 

こういう性質を表す言葉が「耐摩耗性」です。

まず、硬いの意味がこれで理解しやすくなったと思います。

 

焼き入れ焼き戻し工程の頻出単語「脆い」とは

 

焼き入れをすると「脆くなる(脆性)」ので、焼き戻し工程をします。

「脆い」って聞いたことあるけど日常会話ではあまり使わないですよね。
なので私も、「サクサクしてて、ホロホロしてて、触ると崩れる」みたいな理解をしていました。

分かりづらいですよね。
これで理解していたとしても、鋼材がホロホロするなんてちょっと想像しづらいですよね。

 

なので例を挙げて解説します。

 

ガラスとか、ダイヤモンドを想像してみてください。

(金属ではないですが)これらは「硬くて脆い」代表的なものです。
傷がつく抵抗には強い(ダイヤモンドは引っ掻き力No.1で有名ですよね)ですが、たたくと割れます。

 

理解をこう捉えるとわかりやすいかなと思います。

「たたいたら壊れる」=「衝撃に弱い」

 

「硬いけど脆い」というのは、カチカチだけど衝撃で壊れるという意味だと理解すると、「ホロホロ」よりは分かりやすいんじゃないかなと思います。

 

焼き入れ焼き戻し工程の頻出単語「粘り強い」とは

 

焼き戻し工程では、「鋼材に粘り強さを付加します」と書いてあることが多いですよね。

「粘り強い」とはなんだ?と思いますが、これは言葉のまんま理解してもよさそうです。
粘り強い材料は「衝撃を受けても壊れない」強さの事を言います。

 

自動車や船舶の部品で粘り強さが無いと、ある程度の力を受けるとポキッとなります。
ポキっと行く前に何となく伸びる力があると、重大な事故を軽減できる可能性が上がりますよね。

 

粘り強さは「材料の強さ」とか「壊れにくさ」と言い換えることができます。

ちなみに粘り強さは「靭性:じんせい」ともいわれ、反対語が「脆性:ぜいせい)です。

 

焼き戻しの目的

焼き戻しの主な目的は以下の3つです。

  • 鋼材に粘り強さを改善する
  • 残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させる
  • 残留応力を処置する

少し深堀りします。

 

焼き戻しで「鋼材の粘り強さを改善する」とは

 

焼き戻しの一番の目的が「鋼材の粘り強さを改善すること」です。

 

焼入れをすると「硬いがもろい」という状態になります。
カチカチなんだけど衝撃を与えると壊れる状態ですね。

 

(鋼材ではないですが)ダイヤモンドがわかりやすい「硬くてもろい」ものです。ひっかきには強いけど、たたくと割れる。ガラスもそうですね。

 

焼き戻しをすると硬さを少し失う代わりに粘り強さを手に入れる事ができるので、両方のバランスを見ながら条件を設定します。

 

焼入れ+焼き戻しのワンセットを合わせてそのまま「焼き入れ焼き戻し」と呼びますが、焼き入れ焼き戻し処理をした部品は硬さと強さを持っているので摩耗にも衝撃にも強い理想的な状態になります。

自動車や船などの重要保安部品(故障が命に関わる部品)に採用されます。

焼入れ焼き戻しのうち、硬さ向上が目的ではなく、組織の均一化を目的とするものを調質と言います。

 

焼き戻しで「残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させる」とは

 

焼入れをするとオーステナイト→マルテンサイトという経路をたどって変態します。

しかし焼入れで全ての組織が完全にマルテンサイトになれるわけではなくて、一部オーステナイトのまま残ってしまうものがあります(残留オーステナイト)

 

残留オーステナイトは時間がたつと徐々にマルテンサイトに変態していきます。
焼入れのページでも紹介していますが、オーステナイトとマルテンサイトは金属結晶が違うので、この変態によって変形や寸法変化などの悪さを起こします。

 

さらに、マルテンサイトも徐々に「低炭素マルテンサイト」に変化していき、炭素が抜ける分縮小します。

 

焼き戻しをするとこれらの組織を安定化させることができるので、加工品の寸法の変化や割れを防ぐことができます。

 

焼き戻しで「残留応力を処置する」とは

 

焼入れによって、鋼材はマルテンサイト変態や熱膨張によって内部に応力が発生します。(残留応力)

 

この残留応力によって寸法が変わったり、曲がったりすることがわかっていて、「マルテンサイトのままで製品として使用すると突然壊れたり変形したりして危ない」ので、焼き戻しをしてまた組織を変態させます。

 

焼き戻しの種類(温度と組織の変化が違う2つの焼き戻し)

焼き戻しは加熱の温度によって「高温焼き戻し」と「低温焼き戻し」の2種類に分けられます。

 

簡単に言うと2つの目的の違いはこんな感じです。

  • 高温焼き戻し:粘り強さを強くしたい
  • 低温焼き戻し:もろさを改善したい

もう少し詳しく解説します。

 

高温焼き戻し

(動画の4:48から高温焼き戻しをしています。)

 

高温焼き戻しは、焼き戻し時の加熱温度を500~650℃程度に設定して行う焼き戻しです。
保温時間はおよそ1時間以上です。

 

700℃よりも高くなるとまた別の特性を持った組織になってしまうので、通常は600℃以下で焼き戻しできないかを考えます。

冷却する時は空気などで急冷します。

 

急冷する理由は「高温焼き戻し脆性(ぜいせい):衝撃値だけが非常に低下する現象」の領域を避けるためです。
高温焼き戻し脆性は、500度くらいの温度帯をゆっくり冷やすと発生します。

 

焼入れ直後の鋼材は「マルテンサイト」+「残留オーステナイト」の二つの組織で構成されていますが、これを「ソルバイト」という組織に変態させることで、硬さと粘り強さを両立させます。

 

「硬さも粘り強さもどっちもMAXにほしい!」というのは難しいようで、硬さを少し犠牲にする代わりに粘り強さを得るというトレードオフの関係になっています。

自動車部品や船舶の部品のシャフトや歯車など、強靭さと硬さが求められる部品に行われます。

 

低温焼き戻し

(動画の3:50から低温焼き戻しをしています。)

低温焼き戻しは、高温焼き戻しよりも低い温度で行う焼き戻しです。150℃~400℃くらいを狙って行います。

ただし焼き戻しの温度が300~400℃近辺だともろくなってしまう特別な温度領域があるので、その温度を避けておこなったり、この区間を急冷したりします。

 

この、鋼材が脆くなってしまう特別な温度領域を「低温焼き戻し脆性(せいせい)」と呼びます。

 

焼入れ直後の鋼材は「マルテンサイト」+「残留オーステナイト」の二つの組織で構成されていますが、これを「トルースタイト」という組織に変態させることで、もろさを改善します。

 

対象製品は包丁などの切削工具、ゲージやノギスなどの測定器具です。
主に「高周波焼入れ」や「浸炭焼入れ」の後に標準的に選ばれる焼き戻し処理です。

 

低温焼き戻しの際の冷却は空冷などでゆっくり冷却することが望ましいとされています。

 

焼き戻しの注意点

焼き戻し時の注意点は以下の3つです。
(まとめなので、それぞれの注意点は記事内の説明箇所に飛ぶリンクを貼っておきます。)

焼き戻しの注意点

 

焼き戻しについてまとめ

焼き戻しは、焼き戻しとセットで行います。
焼き入れで硬く脆い状態になった鋼材に再度熱を加えて、粘り強さを取り戻します。

機械の肝になる部品に使われる技術なので、取り扱いは慎重にする必要があります。

 

当ブログでは筆者がものづくりについて勉強しながら知ったことを記事に順次反映していっています。
もしご意見、アドバイスなどありましたらお気軽に連絡をください。

将来の夢は、新入社員の教科書みたいなサイトを作る事です。
それでは明日もものづくり、頑張りましょう!

 

 

 

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Comment

  1. 人生は深いな物性物理 より:

    兵庫県姫路市にあるダイセルイノベーションパークの久保田邦親博士(工学)のCCSCモデルはすごい。SNSでは熱処理のことなんかも言及しているよ。

  2. なかむら より:

    コメント失礼します。
    低温焼き戻しの後、なぜ空冷が好ましく、急冷が好ましくないのでしょうか。
    組織的に何か変化が起きるのでしょか。
    回答お願い致します。

    • トモ より:

      質問ありがとうございます。専門の人に確認してきました。
      組織的な変化はなくて、応力が問題となります。
      低温焼き戻しの際に急冷する場合、解放された応力が戻ってきてしまうため。空冷が望ましいとされています。
      ただし、低温焼き戻しであれば応力もそんなに大きくは残らないだろうという仮定から、後工程の加工代が小さい場合は急冷を検討する事もあります。

      とはいえわざわざ急冷のために液体を用意すると、その液体の濃度管理、温度管理、攪拌装置の点検など管理項目が増えるので、空冷の方が楽だと思います。

      ちなみにですが、高温焼き戻しの際も同様の理由で、脆性域を過ぎたらゆっくり冷やす方が良いと言われています。

      以上です。

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