先行着手に関係したトラブルを数回経験したので、注意事項を共有します

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※本記事におけるケーススタディの内容はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 

本記事での困り事:注文書がないのに作業が開始。これ、どうやって支払いを完了させるの?

簡単な回答:先行着手は大小関わらず色んな企業で頻発してますが、これは下請法に違反する可能性があるので、注文→着手を社内に徹底、サプライヤーにも「断るように」と教育するのが重要です。

 

こんにちは、トモ(@Japan_MFG_Tomo)です。
現在は中国の工場で技術部門の日本人窓口として仕事をしています。
最近は日本人と直接やり取りする事も減ったので、現地の中国人のお客さんと技術方面の打ち合わせなどをしています。

 

先日、こんなツイートをしました。(内容はもちろんフィクションです)

通常、外部から調達してくるものは「見積→価格合意→発注→着手」のルートを通ります。
しかし納期が近い場合、社内のルートを通ると時間がかかるので、内内で手配、後に発注という方法をとることがあります。

 

これが、「先行着手」。
サプライヤー側に断る権利はない(じゃあ御社との取引を辞めますと脅されるリスクがある)ので、下請法に違反する可能性があります。

参考:公正取引委員会 よくある質問コーナー(下請法)

 

ケーススタディ

先日お客さんから試作の依頼があったんですが、当初は全ての寸法項目の測定結果添付で見積提出。
実物納品と引き換えに支払いで見積OK貰ったんですが、突然先方の要求が変更。

「実物要らないからデータだけください!」

当然見積もりと金額が変わるのが容易に想像できたし、何なら支払い拒否の可能性もあったので指摘したところ、お客様や内部とひと悶着ありました。

 

 

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Twitter:(@Japan_MFG_Tomo

 

先行着手時の状況

ケーススタディの状況はこんな感じ。

通常はサンプル品発注→製造→実物を納品なので、「実物=商品」ですが、
今回は実物納品前提で見積もり→「実物受け取りと引き換え支払い」とメール文面で約束→着手後に「実物は要らない、データだけ欲しい」と変更→価格が決まらないまま納品を迫られる

という、明らかにおかしい状況が発生しました。

 

私は「今回は商品は物からデータになりました。価格合意前に納品しません」と回答。
そしたら内外から「お前わかってねえな」とバッシング。

 

そして予想通り、「データ代のみ支払う」と言われました。

でもここまでは客先とメール文面で合意しているので、問題ありません。
しかし価格は合意していないので、これから価格の算出です。(納品済み)

我々は立場が弱いので、極力妥当性のある金額で請求を出す予定でいます。
ただし特急の対応もあったので、特急料金も少し載せます。常識の範囲内で。

 

これを断ったらおそらく違反になるのはお客様になるので、私も営業に「あなたが責任をとれるなら良いよ、弊部は一切対応しませんからね」と伝えました。

 

中国にも下請法に似たものはありそうです。(日本語参考記事:アタックス様ブログ)(中国語原文:http://www.gov.cn/zhengce/content/2020-07/14/content_5526768.htm)

ただし、今回の件に完璧にマッチする文章が見つからないので、「小さいトラブル」なのかもしれません。
先方は支払いの意思を見せているので、妥当性のある価格を出せるかどうかによって問題の発生を防ぐことができそうです。

 

先行着手の時、サプライヤーにできる事

さて、話を日本に戻しましょう。
上記のようなトラブルが起きたら、日本では一定の条件を満たすと「下請法」で戦うことができます。

 

客先から先行着手を要求された際、サプライヤー側でできる事は、「とにかく注文に関係する証拠をたくさん残しておくこと」です。

したがって電話でのやり取りは、録音している場合を除き辞めた方が良いでしょう。
もし対応するなら「後にメールで記録を残してください」とお願いすること、これがあなたを救います。

 

  • 先行着手は対応していない旨を説明
  • 先行着手時のリスクの説明
  • 先行着手のリスクへの同意
  • 価格と納期の合意
  • 全ての証拠が揃ってから着手

合意が形成されない状態での特急対応へは、後に価格交渉や納品拒否をすると法律違反になる恐れがある事を理解してもらってから出発です。

何か問題が起きたときに苦しいのは100%サプライヤー側なので、どれだけ信頼関係ができていても、証拠には勝てません。

 

先行着手のリスクについて

先行着手は、とあるトラブルを火消しするために、通常の納期を無視してとにかく特急で品物を入れてもらうことが目的になる場合が多いです。

現場も嫌がるし、客先も値段が上がる事は承諾しきれないので、先行着手は対応しないに越したことはありません。
先行手配は基本的にWIN-LOSEまたはLOSE-LOSEの関係になります。

 

先行着手のリスクは、例えばこんなものがあります。

  • 通常手配と異なり、日程を十分に確保できない
  • どこかで手違いがあると、納期を守れないリスクがある
  • 十分な準備期間が与えられないので、品質リスクがある
  • 不良や納期遅れの責任区分が不明確になる

基本はサプライヤー側に不利になります。
約束している限り品質や納期を守るのはサプライヤー側の義務だからです。

 

規格品でない限りは、着手と同時に仕入れ→加工→検査→納品という手順になりますよね。
不確定要素がある(仕入れリードタイムがばらつく)ので、こういう場合はサプライヤー側は「責任を負える範囲」を明記しておくのが望ましいです。

 

先行着手の、発注元への注意

大企業では毎回発注者がばらつく(設計が先行着手を手配、後に購買部が後追いで発注処理する)ので、社内ルールによって一律で禁止する事が多いです。

ただし、「先行手配」自体は、正しく手順を踏んだ上でなら、意外といろんな会社がやっています。(全く問題がないパターン)

例えば、長納期品の先行手配の場合

  • 設計着手から完成までのリードタイムが3ヶ月
  • 長納期品(品薄なものも含む)は事前に注文
  • 生管が手配した部品を元に設計が微調整
  • 価格と納期は通常納期で対応

この場合は、サプライヤーの標準納期を尊重し、発注も切っているので、通常の調達ルートとみなせますよね。

 

問題になるのはこの行為

  • 部品故障によるメンテナンス品調達など、特急対応したい
  • 先に着手指示、後に発注
  • 「やっぱり必要なくなった」「価格が折り合わない」などでの受領拒否
  • サプライヤーが損失を被る

任務を遂行した上で対価がもらえないパターンです。
これは「下請法違反」と言われる可能性が高いし、それを論点にして争うことが多いです。

 

私は法律の専門家ではないので、公正取引委員会のリンクを貼っておきます。
めちゃくちゃわかりやすいので、一読の価値があります。

参考:公正取引委員会HP

ちなみに下請法に引っかかると罰金があります。(参考:公正取引委員会HP;下請法違反の罰則関係参考

 

Twitterでもアドバイスを貰いました。

https://twitter.com/karuki__/status/1497352209230544897?s=20&t=_8TbdunyAg31t6HW1zdbtg

 

面白い事を考えつく人もいますね。

罰金を狙って金額を吹っ掛けられる可能性もあります。これは発注元にとって大きなリスク。

 

先行着手を要求する形になってしまい、自分が叱られたケーズ

ちなみに私も無意識に先行発注になってしまい叱られたことがあります。
この時は相手企業と弊社上司が私に啓蒙して助けてくださり、何とかなりました。

当時の状況
  • 展示会が近く、急いで工具を発注し、展示の準備をしなくてはいけない
  • 緊急会議の結果、自分が納期と価格の確認担当に
  • 各商社に連絡、納期が最短の場所に依頼
  • 出図手続きを正規に行う
  • 購買が別の商社に発注
  • 問題発覚後、速やかに関係先と対処。こってり叱られる

言い訳は、主任に言われた手順で行ったんですが、主任が細かい作業までは知らず、社内ルールも知らなかったためにすべて素通りして問題を引き起こしてしまった。

 

ただし自分がやっちまったミスなのは事実なので、以後発注業務には関わらない事を誓い、終了。

そもそも設計が直接商社に電話すること自体が間違ってたんですよね。何のための購買だったのかと。

 

これを経験して、会社は分業で成り立っていて、分業の下責任を果たしていることを理解しました。

この時の商社の対応が超絶上手くて、これが今の自分の仕事の仕方の参考になっています。

 

先行着手を要求された時の、サプライヤー側の参考として

サプライヤーは、発注者側から自分を守るための行動が大切です。
特に大切なのはこの二つ、ふたつだけです。

  1. 電話や立ち話での口頭発注は絶対に対応しない
  2. 必ずメールで注文内容(型式や数量など)を残す

たったこれだけ。

納期確認や在庫の有無は電話でもOKですが、それを実際に手配する時は必ず証拠を残します。

お金や品物など、資産の移動が起こるからです。

 

正式な手順は漏らしてしまう発注も、先行手配OKにすれば取れるので、この商社のやり方はうまいですね。

先行手配は信頼の上で成り立ちますが、無知だと一瞬で信頼を壊すので、かならず知っておく必要があります。

 

先行着手に対する結論ですが、
会社として容認していて手順が確実ならOK、グレーがある場合はNGと認識しておきましょう。
特に大企業とのやり取りは平気で要求されますが、相手によっては知らずに要求していることもあるので、伝える作業は大切です。

 

もしためになった!とか、興味を持った!とか思ってもらえたら、ぜひTwitterのフォローをお願いします。

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普段は中小企業の立場としてものづくりに関する気づきごとをツイートしています。
今後はみんなと一緒にものづくりの部活を作りたいと思っています。
みんなと一緒にたのしくものづくりをできる未来を楽しみにしています!

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