【技術士キーワード学習】Ⅰ:エネルギー自給率の向上
エネルギー自給率についての現状
我が国のエネルギー自給率は11%程度となっており、2011年の福島原発の事故が発生した際に、原発の稼働を停止したため、20%のエネルギー自給率から低下している。
エネルギー構成について
2019年度では、
- 石油:37%
- 石炭:25%
- 天然ガス:22%
合計で84%が化石燃料に依存している。
2030年目標では、
- 石油:31%
- 石炭:19%
- 天然ガス:18%
とし、再エネと原子力の割合を増やすことで実現を目指している。
再エネの比率は、
- 水力:8%→11%
- 太陽光:7%→14%~16%
- 風力:7%→5%
- 地熱:3%→1%
- バイオマス:6%→5%
合計で36%程度を占める。
課題と問題点(課題を遂行すべき解決項目)
地球環境を考えつつ日本の経済活動を今後も持続していくためには、エネルギーの入手・確保・輸送・備蓄・転換・利用について検討することが必要である。
このことから、以下の課題を取り上げる。
エネルギーの脱化石燃料化
我が国の一時エネルギーは80%以上が輸入した化石燃料である。このことから、国際情勢が乱れるとエネルギーの入手が困難になる可能性がある。
したがって、エネルギーの入手・確保の観点から、エネルギーを自給自足するために、化石燃料由来のエネルギーへの依存状態を脱却することが課題である。
備蓄や輸送が可能な技術の開発
現在、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料が多く用いられている理由の一つに、輸送や備蓄が可能な一次エネルギーであることが挙げられる。
エネルギーの輸送・備蓄の観点から、化石燃料以外の一次エネルギーの備蓄や輸送が可能となるような技術を開発することが課題である。
エネルギーの有効活用
化石燃料の使用量を低減するためには、エネルギーの消費を減らすことも有効である。
エネルギーの転換・利用の観点から、これまで化石燃料を燃焼させていた方法を改善したり転換したりすることで、エネルギーを有効活用することが課題である。
最重要課題
我が国の2030年のエネルギーミックスでは、再エネを主力電源化することを目標としている。
再エネは電気の形で使用されるが、発電された電気をそのまま系統に流すと、需給バランスが崩れ、大規模停電に繋がる可能性がある。
したがって、作られた電気を、需要に合わせて供給できるようにする必要があることから、「備蓄や輸送が可能な技術の開発」を最重要課題と考える。
解決策
蓄電池による備蓄
定置用蓄電池を利用して、余剰電力を備蓄する。この際に、BEV用途としての寿命を迎えたリチウムイオンバッテリーのセルを交換し、再生してから定置用蓄電池に転用することで、資源の循環利用を促す。
自動車のEVシフトが進むと廃バッテリーが増えるため、今後蓄電池の利用シーンが増えると考えられる。
水素生成による備蓄や輸送
余剰電力を利用して、水の電気分解によって水素を生成する。
水素は燃料電池による発電、コジェネレーションシステムによる熱と電気の同時生成の他に、燃料として天然ガスの代わりに使用することができるため、電源としての利用や発電、加熱用途としての利用が考えられる。
ボイルの法則より、圧力を高めると水素の体積が小さくなる。
現在では一般的に20MPa程度まで圧縮して、トレーラーで搬送している。
これにより、体積は200分の1まで圧縮されるが、更に液体になるまで冷却すると、体積はさらに4分の1まで低下する。
水素ガスを液化するためには、断熱膨張という原理を使う。
ボイルシャルルの法則により、圧力が下がると空気が膨張し、その膨張にエネルギーが使用されるため水素を温めるエネルギーが不足し、温度が下がる。
これにより-253℃の沸点まで温度を下げることで、水素を液化する。
アンモニア生成による備蓄や輸送
- アンモニアの化学式はNH3であり、分子の中に多くの水素を持つ。
- 液化アンモニアの体積当たり水素密度は、液化水素の5倍である。
- アンモニアはLPガス(液化石油ガス)と同程度の圧力を掛ければ常温で液体を保持できる。
- アンモニアは肥料の原料などとしての基礎化学品で大量生産されているため、それらのインフラを利用できる。
これらの理由から、アンモニアは水素を運ぶための物質として使用することができる。
アンモニアから水素を取り出す場合は、触媒を使用し、670℃以上の高温にする必要があるため、更に効率的な方法を研究する。
参考:水素エネルギーとは (その3) | 省エネQ&A | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト] (smrj.go.jp)
技術効果と成果
上記解決策により、再生可能エネルギー主体の電源構成でも、電力の需給の変化に応えられるため、我が国のエネルギー自給率の向上に貢献することができる。
波及効果
水素やアンモニアは火力発電における専焼の実験が行われており、バックアップ電源としての用途にも使用することができ、発電部門のCNに貢献することができる。
懸念事項
- 水素による既存配管の脆化
- アンモニアの流出事故の対応
- 水素爆発