【技術士キーワード学習】Ⅲ:自動車の軽量化
地球温暖化への対策として、CO2の削減が課題である。自動車走行中のCO2削減のためには、エネルギー消費を低減することが必要であり、例として以下に3つ挙げる。
- 動力のエネルギー効率向上
- パワートレーンの効率向上
- 車体の軽量化
動力のエネルギー効率向上には、自動車のHV化、FCV化、EV化や、エンジンの燃焼効率向上(リーンバーン、ターボチャージャー)等が行われている。パワートレーンの効率向上には、ドライブシャフトなどの摩擦係数低減によるエネルギー損失の抑制や、ATのCVT化等がある。
ここでは、車体の軽量化について記述する。
自動車軽量化のための材料技術の現状
材料技術
参考:自動車の軽量化が求められる理由とは?カギを握る「素材開発」の最新動向|自動車関連ソリューション|三菱ケミカル株式会社 (mcc-ams.com)
ハイテン材からアルミニウム、マグネシウムへの転換
自動車の構造材料に要求される性能は
- 強度
- 成型性
- 表面処理性
- 価格
などがある。
その中でも鉄鋼のコスト優位性が高く、ニッケル・シリコン・マンガンなどの元素を転化したハイテン材を使用し、薄肉化することで軽量化に貢献してきた。
現在でも骨格部分には鉄鋼を使用し、カバー等の部分ではアルミに使用比率が高まっている。
更に軽量化するために、航空機やロケットに採用されるマグネシウムを採用することもある。(強度に優れ、信頼性が高い)
マグネシウムはアルミニウムよりも軽量であるが、可燃性が高く腐食しやすい欠点がある。
そこで、アルミニウムや亜鉛等と組み合わせたマグネシウム合金を開発し、これらの欠点を克服している。
プラスチック材料の活用
金属材料を、より軽量な金属に転換するほかに、金属材料から、より軽量な樹脂に置き換えて軽量化する方法も存在する。
近年では、再資源化が可能なバイオプラスチックと高強度な炭素繊維やガラス繊維を配合した高剛性軽量材料が開発されている。
形状技術
- 肉抜き
- 中空構造化
- 薄肉化
- 成型方法の転換
等がある。
特に、近年ではAMの普及により、従来の鋳造や切削では達成できなかった形状を実現することができるようになっており、更なる軽量高強度を実現できる可能性がある。
接合技術
参考:異なる種類の金属を接合する「異種金属接合」とは?注目されている背景から金属接合の種類と選び方までを解説 – ZACROS 藤森工業株式会社 情報電子総合サイト
部位ごとに異なる金属を使用し、特殊な接合技術を使って接合することで、強度が必要な部分と軽量化が必要な部分それぞれの要求を満たす方法がある。
化学的接合
原子やイオン、分子の間に働く力を利用した「ファンデルワールス力」や「アンカー効果」を利用して、材料同士を強固に接合させる接合技術のことである。
接合に用いる材料を接着剤という。
機械的接合
ねじや圧力などによって接合する方法のことである。
- ボルトやナットの2部品による締め付け
- プレス機による押し込み
- 焼き嵌め
- カシメ
等の方法がある。
材料的接合
- 部材を溶かして接合する溶融接合(溶接等)
- はんだ付けなどの液相接合
- 部材を溶解せず固相状態で加熱し、加圧することで接合する(FSW)
等の方法がある。
自動車の軽量化におけるの問題点と課題
省エネ性能と強度の両立
自動車に要求される性能として、万が一事故が発生しても人命を守ることが挙げられる。
軽量化した分強度が低下し、衝突や接触によって怪我をする場合、自動車としての信頼性が低下してしまう。
したがって安全の観点から、軽量化による省エネルギーと、強度を両立することが課題である。
使用年数の間性能を保証できる耐久性
我が国の自動車平均使用年数は13年以上となっており、開発時からの経年変化が考えられる。
例えば数年間で脆性が悪化する樹脂部品を使用すると、使用年数を満足せずに買い替えが必要になることが考えられる。
したがって信頼性の観点から、想定される使用年数の間、劣化せず性能を保証できる耐久性を確保することが課題である。
参考:r5c6pv000000wkq8.pdf (airia.or.jp)
量産性
我が国の新車販売台数は400万台以上と、月に数十万台の新車を製造する生産能力が求められている。
したがってリードタイムが長くなる製造方式の場合、生産能力が追い付かないため、需要を満足できる高級車専用の技術にとどまることが考えられる。
量産性の観点から、生産能力を向上し、市場に最新技術を展開するために、技術を標準化することが課題である。
最重要課題
近年、EVシフトに伴い新興の自動車メーカが増えているが、事故や系統のトラブルにより人命が失われるような事例が出ている。
ものづくりでは安全性の確保が必要であることから、「省エネ性能と強度の両立」を最重要課題と考える。
最重要課題の解決策
軽量化性能と強度を両立する構造の作成
軽量かつ高強度となる様に、負荷の小さい部位の薄肉化や中空化を実施する。
従来切削加工や鋳造で実現できなかった形状は、付加造形によって実現する。
異種金属の接合
強度の必要な骨格部分には従来通り鉄鋼材を用い、カバーやそれを取り付けるビーム部分には軽量材料を使用することで、必要強度に合わせて最軽量な材料を選定できるようにする。
異種金属は、触れ合うと電位差が発生し、腐食の原因となる等、強度に影響するため、機械的接合ではなく化学的接合や摩擦攪拌接合等を採用し、長期の信頼性を確保する。
部品点数の削減
自動車の構造を見直し、部品点数を減らすことで軽量化を実現する。
例えば、自動車のカバーを取り付けるビームは、機能として「分割されたカバーを取り付ける」ことが求められている。
前提条件である「分割されたカバー」を一体成型することで、部品点数を削減する。
解決策による効果
自動車に求められる安全性能を損なうことなく、自動車が軽量化され、省エネ性能を向上することができる。
波及効果
自動車の飛行を検討する際に、軽量化技術を活用することで、飛行距離を延ばすことに期待できる。
懸念事項
分割構造を見直し一体成型することで、一部の破損により自動車全体の修理が必要になる等、メンテナンスコストの増加が懸念される。
懸念事項への対策
修理技術の向上
材料の循環利用